借金を背負っても、命までは取られまい
いくら料理が得意とはいえ、果たして、素人にシェフが務まるのだろうか。そんな疑問を山本さんにぶつけると、「料理は度胸。細かなことにこだわっていても仕方がない。いい食材を使って、原則さえ踏まえれば、後はえいやとやれば美味しいものができるんですよ」ときっぱり。
その言葉通り、山本さんの食材へこだわりは相当なもの。たとえば、だしに使う昆布は北海道の歯舞漁協から取り寄せたもの。この昆布でだしを取ったところに、削り節を惜しげもなく加えるため、みそ汁ひとつをとってもうまさは抜群。カニクリームコロッケにしても、中身のカニは缶詰ではなく、築地で仕入れてきたゆでタラバガニというだけあって、ひと口ほおばると、口の中全体にカニの風味と甘味が広がるという極上の味。また、外食の弱点である緑黄色野菜と食物繊維に気を配るなど、栄養のバランスも考慮。普通、料金に対する食材のコストは二割から三割というが、山本さんの場合は五割はかけているという。
「とにかくうちは立地が悪いので、お客さんに安くて、おいしかったと思ってもらえるようなサービスを第一に心がけているんです。だから、わかってくれる人はわかってくれる。おかげさまで、固定客もずい分付いたんですよ」
開業資金には、山本さん自身の退職金はもとより、一歳下で定年まで保育園勤めを続けてきた妻の静子