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店を開くことは亡き長男との約束を果たすことでもあったのである。そして、「障害者でも気楽に入れるお店をやりたい」と話していた長男の希望どおり、「段差のない広い入口」「車イスのまま入れるトイレ」を備えたバリアフリーの店を開いたのだった。

 

 

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築地の買い出しから戻った山本さん。レストランの2階が自宅。

 

 

借金を背負っても、命までは取られまい

いくら料理が得意とはいえ、果たして、素人にシェフが務まるのだろうか。そんな疑問を山本さんにぶつけると、「料理は度胸。細かなことにこだわっていても仕方がない。いい食材を使って、原則さえ踏まえれば、後はえいやとやれば美味しいものができるんですよ」ときっぱり。

その言葉通り、山本さんの食材へこだわりは相当なもの。たとえば、だしに使う昆布は北海道の歯舞漁協から取り寄せたもの。この昆布でだしを取ったところに、削り節を惜しげもなく加えるため、みそ汁ひとつをとってもうまさは抜群。カニクリームコロッケにしても、中身のカニは缶詰ではなく、築地で仕入れてきたゆでタラバガニというだけあって、ひと口ほおばると、口の中全体にカニの風味と甘味が広がるという極上の味。また、外食の弱点である緑黄色野菜と食物繊維に気を配るなど、栄養のバランスも考慮。普通、料金に対する食材のコストは二割から三割というが、山本さんの場合は五割はかけているという。

「とにかくうちは立地が悪いので、お客さんに安くて、おいしかったと思ってもらえるようなサービスを第一に心がけているんです。だから、わかってくれる人はわかってくれる。おかげさまで、固定客もずい分付いたんですよ」

開業資金には、山本さん自身の退職金はもとより、一歳下で定年まで保育園勤めを続けてきた妻の静子

 

 

 

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