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表紙絵から

 

 

池田げんえい/1946年神奈川県生まれ。日本児童出版家連盟、現代児童会会員。創作『鬼の会』同人。日本デザイナー学院講師。はり絵作家。

 

● 平成・東海道五拾三次

その39「岡崎」

 

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宮内庁御用達、八丁みそ工場

 

-八丁味噌蔵-

鉛色の空を見上げるとふと思い出した。「あのおばあちやんどうしたかな」-名電豊橋のホームで発車時刻を聞いてきたあのおばあちゃん。ボクは歩きたくなくて、自分に言い訳を考えながらウロウロしていたところ。聞けば渥美半島の突端から今朝出て来て、熱田神宮までお参りに行くという。昔、白内障を患ったとか、厚いレンズのめがねの奥はハムスターのようにつぶらな瞳。よし、これで迷いが吹っ切れた。ボクは思わず手を取って電車に乗り込んだ。

御油まで同行したが無事に戻ってくれただろうか…。86歳といっていた。御油から赤阪、藤川までどうにか歩いたが、もうすぐ絶対雨が降る、と回りの空気が確信に満ちて訴えている。ボクはもう言い訳なしにこの名電で岡崎、矢作(やはぎ)橋に向かった。そして岡崎城は遠く、深い夕もやに、にぶく重く霞んでいた。

 

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矢作橋から遠方に岡崎城を望む。

 

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安藤広重絵「岡崎」

 

絵中の矢矧(やはぎ)橋は、日吉丸(のちの豊臣秀吉)が野武士蜂須賀小六に拾われたところとか。右前方彼方に見えるのは、徳川家康が生まれた岡崎城。後年のライバル、因縁の構図である。

 

 

 

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