■ 地域活性化への可能性に向けて
介護保険のメリットは他にもある。上記のような地域への流入金を基盤に行われる高齢者福祉サービスは、地元に雇用を生み、地域の購買力を高める。つまり地域経済の活性化にもつながるというわけである。実際に最上町では、これまでの福祉政策により、町内総就業人口の五%にあたる三一〇人分の雇用を創出した。その結果、地元高校の卒業者の約五分の一が地元に残るようになった。高齢化対策としてはじめた福祉が、長年苦しんできた過疎化対策にもつながったのである。そして福祉事業によりもたらされた購買力については、町全体の商業売り上げの八%にあたる七〜八億円にものぼると試算されている。
実は介護保険などの福祉が経済に及ぼす影響については、近年様々な研究が行われている。大阪自治研究センターによれば、福岡県や大阪府などで同じ一〇〇〇億円を建設業と社会保障に投資した場合、経済波及効果の面でも雇用創出の効果においても、社会保障が建設業に勝っているという。また三菱総合研究所のシュミレーションでは、介護保険導入により日本のGDPは○・二四%上昇するという。ひとり最上町が例外ではなく、高齢者福祉が地域経済や国全体の経済を活性化させうる合理的な政策であることがわかる。
「高齢者福祉が財政を圧迫する」という心配(=福祉お荷物論)がいかに根拠に乏しいか、逆に介護保険には地域経済を活性化するメカニズムがあることをご理解いただけただろうか。実はいま、最上町のように地域活性化の手段として高齢者福祉に積極的に取り組む市町村が増えている(詳細は拙著『福祉で町がよみがえる〜介護保険と自治体戦略〜』を参照されたい)。つまり介護保険がはじまる二一世紀には、我々の暮らしと地域経済は自治体の政策次第で大きな影響を受け、結果として自治体間に格差が生じる時代となるのである。