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連載 笑う門に福来たれ

 

 

嫁入り 『江戸のこばなし』より No2

 

鶴は千年、亀は万年という言葉があるが、古来、鶴も亀も大変長命な、おめでたい生き物とされてきた。

その亀の娘のお亀と鶴の息子の鶴吉が結ばれることになり、お亀の両親は大喜びである。

ところが、どうしたわけか、娘のお亀は、自分の部屋の片隅で、メソメソ泣いていた。

驚いた母親が、

「こんなよろこびのさなかに、なにがそんなに悲しいのかい?」

と聞くと、

「鶴ちゃんのお嫁さんになるのはうれしゅうござんすが、鶴ちゃんに死なれた後、九千年も後家で暮らすのかと思うと、それがつらくて、つい泣けてくるのです」

(『虎の巻』天保年間一八三〇-四四年頃刊)

 

● 厚生省が発表した日本の平均寿命のデータによれば、現在、男性が77.01歳、女性が83.59歳だとか。寿命が延びるに従って再婚件数も増加、日本でも年間70万組を越える再婚カップルが誕生しているが、このお亀ちゃん、いまの世まで生きていれば何百回?も新しい旦那さんを迎えられて幸せいっばい?

● 江戸時代、町人の間で広く愛された「小咄(こばなし)」。短い話の中に人情や世相の機微を取り込みながら、おもしろおかしく結末を結ぶ。世の中ははるかに変われど、当時のこばなしは、時空を越えて現代の私たちにも粋な笑いやペーソスを届けてくれる。山住昭文氏による著作から毎回連載でお届けする。

『江戸のこばなし』(定価1100円) 山住 昭文著

原作の味わいを残しながら、現代の読み手にもわかりやすく手を加えた軽妙な1冊。筑摩書房から好評発売中。

 

 

 

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