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は『しんどい』と言っていたが、市の職員には『がんばる』と言ってしまう傾向があったよう」とも打ち明ける。

神戸市のボランティア団体の芝崎さんは、「親子は想像もできないほど疲れていたのではないか。最初に疲れてしまうのは介護をする人、その介護者をタイミングよくサポートするソフトがあったら今回のこともなかったのではないかと思うと残念で…」と話していた。(読売新聞、毎日新聞)

この五つのエピソードはいずれも、いま現在起こっている事例のごく一部にすぎない。筆者はこの最後の新聞記事を、勤務している看護大学の二年次の学生の試験問題に採用し、設問のひとつで「この記事の文中でもっとも印象に残ったコメント」を指摘するよう求めた。以下はその答案のひとつだ(学生たちがもっとも多く指摘したのが、「アドバイザーには『しんどい』…市の職員には『がんばる』と…」というコメントであった)。

ここに紹介する答案もこのコメントを取り上げ、「これでは市の職員は"まだがんばれる"と誤解してしまいそうである。やっぱり"お役人"には本音を語れないのだな、と思った。仮設に住んでいる人、公的サービスを受けている人、いわば弱い立場にある人は、肩書のある人、目上に見えてしまう人に対し『いいえ、私は大丈夫です』と無理する人が実際にいることがわかった」としている。この記事の副題には「孝行息子がなぜ?」とある。これは現実であって、観念やフィクションの世界のできごとではない。

さて介護保険導入について、「保険あって介護なし」と懸念されるのは、要するに市民は「金がないというのなら出そう」と、新たな拠出(保険料)については了承したが、ニーズに対応するサービス資源が不足するのではないかという不安である。ここで前提としなければならないのは、ニーズとは、これまでの福祉制度では、行政側にとっては表面化しなければニーズではなく、市民にとっては低抗感なく利用でき対応する社会的サービスがあってこそ、ニーズは現実化するということである。

たとえば「ゴールドプラン」が発足する前の、一九九〇年以前においては、わが国に在宅ケアについてのニーズは存在しなかった。なぜならば社会的サ

 

 

 

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