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パネルディスカッション

 

新しい保育サービスと保健活動

 

司会者 大林一彦(日本小児科医会常任理事)

パネラー

木野稔(中野こども病院副院長)

喜連川慈雨子(大阪市・諏訪保育園長)

酒匂久美子(豊中市立桜塚保育所看護婦)

 

提案要旨

 

新しい保育サービスと保健活動

 

木野稔(中野こども病院副院長)

 

少子社会が現実となった今、医療を通じて育児支援を行ってきた医師も、従来のように病気を治すことのみに満足することなく、健康で質の高い子どもを育てる努力が求められている。当院は、大阪市北東部に位置する小児専門の私的病院であり、救急告示病院としての活動以外に臨床児童心理研究所と保育所を併設して心身両面からの小児医療を実践している。主な保育活動は、保育園の運営、乳幼児健康支援デイサービス(病児保育)、発達や情緒の問題をかかえる乳幼児に対する母子並行心理治療、入院治療を要する場合には乳幼児の完全看護を行う分離入院、子育て支援の一環としての健康教室(こども大学)などであり、本パネルではその実状と問題点について報告する。

病児保育は、母親の就労と子育ての両立を支援する事業の一つとして、エンゼルプランにおいてもその設置施設数の増加が期待されたが、まだ数・内容ともに社会的ニーズを満たすには目標にほど遠いのが現状である(厚生省が予算措置をしたのは全国で500ヵ所だが、現在100ヵ所にすぎない)。行政からの経済的支援もさることながら、母親のみに病児のケアをまかせておけば事足りるとする社会的認識を改革する必要がある。つまり、育児は個人から、それをバックアップする地域保育、社会保育の時代に移りつつある。

我々は、分離入院を病児保育の延長と捉えている。親と分離して入院する際には、患児は情緒面でどのような影響をうけるのか、環境への適応性についてはどうなのかなどきめ細かい配慮がなされなければならないのは当然である。しかし、子どもの入院治療を機会として、育児方法の問題点や子どもの心身に影響を及ぼしている複雑な家庭事情などが明らかになり、分離入院に積極的な意味付けがなされることも多い。そのような場合には、母親が付き添うべきであるという画一的な通念はむしろ弊害となる。また、母親が十分に看病できるための緩和策として、入院児以外の兄弟保育も目下検討中である。

核家族化で地域社会の絆がうすれる一方、育児に関する情報は過多となり、両親には人知れぬ育児不安が存在している。「子どもは育てるよりも育つもの」であり、育てる必要があるのは「親」そのものであるという考えで、我々は両親・祖父母を対象とした健康教室を開催している。最近では父親の育児参加が進み、少子化対策と称する経済施策も数々行われようとしている。このような中で新しい保育を考えるとき、子どもよりもまず社会や我々大人が意識を改革するところから始める必要があると思われる。

 

 

 

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