第四回観光に関する学術研究論文の審査を終えて
審査委員長・東京大学教授
西村幸夫
第4回目を迎えた本年度の観光に関する学術研究論文募集には例年をやや下回る14件の応募があった。募集段階では121件という多数の問い合わせがあったのであるが、昨年度までの入選論文の質の高さを知って、心して準備をおこなおうということで今年度の応募に慎重になった結果ではないかと考えられる。これまでの3年間の受賞論文の質の高さは定着し、選考全体の水準の高さも多くの人の知るところとなってきたと思われる。
本年度の選考にあたっては、まず各選考委員から4点の推薦を受け、推薦点数の低いものから順に対象外としていいかどうかを1編ごとに慎重に議論し、受賞作を絞り込んだ。14件いずれも例年以上の力作が多く、審査は難航したが、最終的には審査員の全員一致で各賞の受賞者が決まった。受賞論文は一席1編、二席2編、奨励賞3編である。奨励賞の枠は4編であったが、対象者がさらに上位の賞を受賞したこともあり、1編少ない結果となった。なお、例年通りすべての選考は最終段階まで応募者の名前を伏せた完全な覆面審査で厳正におこなわれた。
一席に入選した高容生論文はバックパッカーの経済的インパクトが一般に考えられている以上に大きく、これを対象とした観光政策がすでにオーストラリアでは実施されていることを丹念に調査し、紹介した論文である。その目配りの利いた論調と、新鮮な視点に対し、審査員全員の高い評価が与えられた。本論文が活字となって発表されることによってわが国の観光関係者にも少なからぬ影響を与えるだろう。
二席の1に入賞した高媛論文はいわゆる「満州」観光のナショナリズムを中立的な立場で掘り下げて論じたもので、その分析力の確かさに審査員の注目が集まった。中国からの留学生であるが、言葉のハンディを感じさせない分析力・表現力は感嘆に値する。
二席の2に入賞した岡野英伸論文は、神戸市の須磨海浜水族園のリニューアル成功に着目し、需要の季節性がいかに前後で変化したかを実証的に論じたものである。着眼点のおもしろさが高く評価された。
奨励賞の本庄・森論文は専門化と無店舗化という旅行業の流通の変化を消費行動の変化と共に論じたもの、奈良論文はエコツーリズムを関与する多様な主体別に分析し、あわせて西表島の事例を紹介したもの、朝水論文はオーストラリア観光省創設の経緯を綿密に調べ上げたものである。いずれも着眼点の良さや繊密で安定した語り口、しっかりとした論文の体裁が評価された。