ジョセフ・ナイ ハーバード大学ケネディスクール学長 講演会
「東アジアの安全保障問題を考える」
平成10年7月15日 於:ホテル・オークラ
-東アジア地域の安全保障の枠組みと、同地域における米国のプレゼンス-
東アジア地域においては、東南アジア諸国連合地域フォーラム(ASEAN Regional Forum)があるものの、ヨーロッパにおける西欧同盟(West European Union)や北大西洋条約機構(NATO)のような安全保障に関する強固な組織が存在しないため、米国と米日の同盟関係の存在が地域の安全保障について重要な役割を担っている。また、米国は、以下の理由により、旧ソ連との冷戦終結後の世界情勢下においても、東アジア地域に積極的な関与を続けていくこととなろう。その理由は、1]米国は地政学的に環太平洋地域に属しており、この地域に無関心ではいられないこと、2]最近の経済危機はあったものの、東アジア地域は2020年には世界で最大の経済規模を有することになる重要な地域であり、米国としても関心を払わざるを得ないこと、3]米国社会において国内でのアジア系住民の政治的な圧力が高まっており、米国政府としてもこれを無視できないこと等である。
対北朝鮮、対中国政策
東アジアでの安全保障を巡る問題点としては、短期的には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を巡る朝鮮半島情勢、また、長期的には国力を高めつつあり、大国である中国の動向が問題となろう。
まず北朝鮮問題であるが、食糧危機・核兵器問題について、国際世論には強硬論者の封じ込め政策と朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を中心とした対話路線の二つがあるが、私はKEDOなどを通じての対話により、北朝鮮に国際的な開放圧力をかけていくことが重要であると考えている。いずれにしても北朝鮮の動向は予測困難なところがあり、現状では、北朝鮮は、東アジア全体の安全保障にとって「明白かつ現在の危険」であり、引き続き警戒していくことが必要である。
次に中国であるが、歴史的に見ても、国家が新たに台頭して来る場合には近隣との摩擦が生じるものであり、それを回避するためのクリントン大統領の訪中などの積極策は、多くの議論を呼ぶものではあったが結果としては妥当なものであったと考える。また以下の理由により、クリントン政権は現在の「強い」中国を好意的に見ていると考えられる。即ち1]米国は中国に対して経済的な優位を保っており、今後もその傾向は続くであろうこと、2]中国の軍事力は規模からすれば大きなものではあるが、この面でも米国の優位は保たれていること、3]中国は軍事大国になるためには必要である、ハイテク技術に経済的軍事的な投資を十分に行っているとは言い難いこと、4]中国は国内の貧困問題に対処しなければならず、また、多くの自治区を抱えるなど地方統治においても内政上の問題を抱えていること、5]「封じ込め政策」は近視眼的な政策であり、長期的な観点からは敵国とみなすよりは「責任ある普通の国家」として扱うことが賢明な選択肢であるとクリントン政権が考えていると見られることによる。
この地域の安全保障にとって、米国と地域各国の間での同盟関係を強化すること、多面的な関係を確立すること、「建設的な関与」を行うことなどが重要であり、将来的にも、米国・中国・日本の三大国がこの地域の安定と発展に大きな役割を担うことになるろう。
インド・パキスタン情勢
最後に、インド・パキスタン問題についてであるが、かつての米・ソの冷戦とは全く異なることを認識しておく必要がある。即ち、両国間での問題は基本的には地域紛争を原因とする二国間問題であり、世界的に大きな影響を持つものではなく、また、核兵器もミサイルと航空機搭載型とに限定された小規模なものであることを認識しておかねばならない。しかし一方、両国間には定期的な対話ルートもなく、二国間での重大な問題に発展する可能性も0ではなく、国際的にもある程度の影響を与えずにはおかず、十分に警戒していくことが必要である。
以上