第4セッション
欧州の拡大と日本
国際基督教大学教授
植田隆子
はじめに
ベルリンの壁の崩壊以来、欧州は拡大しつつある。欧州では、安全保障や他の分野の協力において、地域的な国際組織が重要な役割を演じてきた。欧州の拡大は、二つの主要な組織である欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)が拡大過程にあることから目に見えるものである。欧州の民主的価値を体現した国際組織である欧州評議会については、すでにロシアにまで拡大している。
1989年以来の欧州の拡大、換言すれば、欧州の「内部」秩序の再編は、欧州域外にも影響を及ぼしてきた。とくにNATOの拡大をめぐり、米国とロシアはかかる再編過程に緊密に係わってきたからである。米国は唯一の超大国として、ロシアはソ連邦の分解以来、不安定の源として、影響を及ぼしている。欧州においては、米国とロシアが「太平洋国家」であるという認識はほとんど持たれていないが、日本は、ロシア、米国あるいは米欧関係の推移を介して、欧州の拡大の影響を被るかもしれない。
フィンランドのEU加盟(1995年)以来、EUはロシアと1、300キロの国境線を共有している。日本はロシアの東側の隣国であるため、日本とEUには共通の隣国があることになる。米国については、日本は日米安全保障条約に基づく同盟国であり、EUの大部分の加盟国もまた、NATO枠で米国の同盟国なのである。日本と欧州の共通の関心事項として、同盟問題がある。この点に関し、米欧関係(米-EU関係を含む)の推移は世界経済や国際政治のマネジメントにおいて決定的な要因であろう。三極(米-欧州-日本)関係が論じられて久しいが、ユーロの導入以降は、米国とEUの二極世界になるのではないか。
本ペーパー、欧州の拡大の日本に対する影響を、上記の見地から検討するものである。まず、最初に欧州諸国および欧州の国際組織と日本の間の協議・協力枠組みを紹介することとする。(1)
1989年以降の日欧関係の展開
1998年9月の欧州評議会をめぐるシンポジウムにおいて、福島西欧第一課長は、日欧関係について次のように述べた。「日米間ではこれまでの歴史的経緯、地理的関係等から非常に緊密な関係が既に出来上がっております。そしてこの日米関係に比べれば、日欧関係は相対的に弱いものと捉えられておりました。