各セッション要旨
第1セッション「EU統合の進展と国民国家の変質」
ナイジェル・エバンス氏(駐日欧州委員会代表部 公使)は、EUは継続的な統合と発展のプロセスの途上にあると位置付けた上で、現在の重要な課題として、1]EUと各加盟国の間での様々な問題での決定権限のバランスをどうするのか、2]EUとしての一体性(homogeneity)をどう確保するのか、また、共通の利益をどう理解するのか、などを指摘した。
ダダ・ハーテリウス氏(米国 東西研究所 副所長)は、EUの東方拡大に関し、EU諸国の指導者達の熱意が多少醒めつつある点(Loss of Momentum)を強調し、その問題点として、1]拡大によりEU内の貧困国へのEU農業補助金が減少すること、2]EU域内での安価な労働力の移動の問題、また3]犯罪・麻薬の流入及び密入国に対する検間など国境の管理が問題となること、更には、4]加盟予定国の加盟準備に対するEU側の指導・援助などでの対応の遅れ、を指摘した。
上記報告の後の議論では、1]最終的なEUの姿、すなわち超国家的な組織としてEUの最終的な形態がどうなるのか、また、統合進展のスピードはどうなるのか、2]Federalism(連邦主義)とInter-governmentalism(政府間主義)の主張は経済、農業などの分野により異なった様相となるのではないか、さらに3]文化的な側面からは、旧東欧諸国のNATO/EU加盟はヨーロッパの一員であるというnational identityの確認という側面もあるのではないか、4]地理的にどこまでを「欧州」に含むか(トルコとキプロスなどを例として)、などが話題となった。
第2セッション「NATOの東方拡大とロシアの対応」
ジョン・ケリー大使(元 駐フィンランド 米国大使)は、NATO拡大の東欧諸国にとっての意義を認めながらも、1]NATO拡大問題はグローバルな安全保障問題であって、その結果が旧東欧諸国や西側世界に対するロシアの政策を硬化させることになってはならない、それゆえに2]NATOの拡大は慎重な手続きによりなされるべきだ、との見解を示した。
ロタール・ルール教授(ドイツ・ケルン大学)は、NATOの拡大に慎重な意見を示したケリー大使の意見に同調にしながらも、1]ロシアはNATOの拡大を阻上できないばかりでなく、2]自国の利益という点からも、ロシアはNATO拡大に適応していくべきであるとの見解を示した。
また両氏は、中・東欧諸国にとってのNATO加盟の意義は、1]政治的な姿勢を明確に示すものであるとともに、真に軍事的な意味での集団安全保障を享受することであり、2]NATOの拡大以外にこれを付与できるものはない、という点で意見が一致した。