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ルール教授はロシア内部のNATOの拡大動向についての猜疑心は根強いものがあり、また、欧州での動向がロシアのアジア政策へも影響を及ぼす可能性があることを指摘した。嘉治助教授は、ユーロの導入は成功するであろうが、ユーロが強い通貨になるにしても導入にさほど成功しないにしても、いずれの場合にも導入に伴う急激な国際通貨体制の変動が生じた場合には大きな危険が伴うことを指摘した。ワナンディ氏はグローバリゼーションの進展に伴い欧州とアジアは政治経済面では多くの協力が必要であり、アジアは欧州の先例から学ぶべきものは多く、殊に欧州型地域レジームはアジアにとっても参考になることが多いものであるとの見解を示した。佐藤研究主幹は拡大ヨーロッパの動向は過去に例を見ない歴史的な意義のある好ましいものであるが、同時に悪影響を伴う可能性もあり、賢く、かつ、用心深く推進されるべきものであり、アジアはそのプロセスでの解決方法や手段から多くを学び、アジアでの地域協力に生かすべきであるとした。

 

その後に行われた質疑では、まずEU拡大とNATO拡大との関係について質問がなされた。ケリー大使は、ソビエト連邦が解体してから両者は並列的に行われるべきものであったが、両機関は多くの相違点を抱えているため、混乱や緊張関係の発生を避けるために実現は不可能であったとした。佐藤研究主幹は、それぞれの相違を指摘し、EU加盟は旧東欧・旧ソ連諸国にとっては経済的な負担が大きく、NATO加盟にはさほどの負担が伴わないことを指摘した。

その他の主な質疑では、NATOの対アジア政策についての質問で、ケリー大使はNATOの拡大は直接的にアジアと関係があるものではないが、ロシアの対中国政策には影響を及ぼすことが考えられ、それがNATOにも反映される可能性があるとした。euroの世界的な影響についての質問では、嘉治助教授が、euroが強すぎる場合、また弱くなる場合のいずれにおいても国際的な通貨不安をもたらす可能性があり、また、euroについて、米国には焦燥感とともに、不本意な思いがあり、国際通貨・金融システムに何らかの改善が必要であるとした。佐藤研究主幹はeuroのもたらす保護主義的な要素について、米国には60年代のような保護主義をとる可能性はなく、ヨーロッパについても同様であり、EUは世界貿易の観点からも好ましいものであるとの見方を示した。

 

 

 

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