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河野家の鹿倉祭の「矢ハズのモリ」御幣(銀鏡秋切)

 

この中で、モリから少しはなれるが、「オコゼ」という御幣は、注目に値する。この御幣を、筆者は今のところ小川地区だけでしか見たことがない。「獅子場祭」は隣村になる銀鏡では神楽がある大祭の最後の日に行ない猪など鳥獣の霊を祀り魂を送るものだという狩猟に関係した祭りであるから、オコゼを祀るのは理解できる。隣村の椎葉の猟師の家では、本物のオコゼを保存している人もいる。

 

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河野家の鹿倉祭の「矢ハズのモリ」御幣(銀鏡秋切)

 

(そこでは「コウザキ宿」という屋号の家でやはり霜月に神楽とは別に祭りをしていた。)御幣のオコゼは、半紙二枚を組み合わせ、ちゃんとエラやヒレも彫ってある美しいものである。このオコゼといい、人形御幣のモリなど、このような独特な御幣は、九州山地の神観念のなかで生まれてきたと思われるが、今日、九州山地のクラフトデザイン文化としても再認識できるものであるといえば神を冒涜することになるであろうか。

 

モリにもどろう。村所も小川も個人の家や地区の祭にはモリが祀られるが、大祭(神楽の日)には、モリは祀られない。だが東米良の有名な銀鏡神楽の日には、本殿裏の朽ちた神木跡にユウギという人形御幣を付けた小さな橋が作られ、境内には「神のモリ」と「矢ハズのモリ」が定められた樹木に祀られる。この形式は同じ銀鏡の秋切(あきぎり)集落の鹿倉社(かくらしゃ)の祭りでも同様に「ユウギ」「神のモリ」「矢ハズのモリ」のセットで祀られる。この祭りは、銀鏡神社の祭りごとをなす旧家の河野家を中心に行なわれることが示唆的である。

 

 

 

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