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財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ

古都奈良の歴史を訪ねて………渡邊勇作

 

晴耕雨読の身となって約三年、折を見ては旅を重ねているが、現職時代から通算すると二十余ヶ国を訪ねたことになる。歴史書を読み返しながら、それぞれの国の人々の生活にふれ、文化にふれ、想像をめぐらせるのは楽しいものである。王宮の華やかな生活を想い、美しい自然の中に牧歌的な農民の生活を想い、時には天地創造の神秘にまで想いを馳せることもある。爾来、旅と歴史の虜となったまま、ますます熱が高まっている今日この頃である。

本来国鉄の土木技術者として半生を送った無骨者だけに、大変な変わりようであるが、こんな矢先、日本の歴史を尋ねての日本ナショナルトラストのお手伝いが始まったのは不思議なご縁であり、大きな喜びでもある。今は主として大乗苑庭園の発掘調査と復元整備に携わっているが、室町時代の庭師の第一人者善阿弥の作と言われ、更にそのルーツは平安期にさかのぼると伝えられている。現在残る数少ない名庭園の一つであり、古人のロマンに魅せられての仕事に大きな感動を覚えている。

概要を申し上げると、基本的な問題として、現在JRの所有している敷地内以外は都市化宅地化が進んだため、手をつけるのは無理であるが、文化的に最も重要な意義のある池に関しては本池、小池共に該敷地内に殆どが含まれる公算が大きいのは幸である。然し明治以降の開発により、池の周辺部において可成りのデフォルメが行なわれた形跡があり、どこまで復元をはかるか判断を迫られているところである。

現実との妥協はある程度やむを得ないであろうが、その上で如何にして当時のコンセプトに相似した庭園が再現出来るかが今後の課題となるであろう。足利将軍義政も別邸を設けて度々訪れたと伝えられるこの庭園に、義政の後姿を彷彿させるようなイメージを求め、古都奈良を訪れる観光客の眼を楽しませてもらいたいものである。

〈(財)日本ナショナルトラスト評議員〉

国際交流基金アジアセンターでは、アジアの相互理解の促進を目指し、アジア域内の現在の文化・社会事情やその歴史・背景について理解を深めるために、専門家の講師を招き講座を開講している。一月十一日から三月二十九日まで「中国の少数民族の民俗芸能から」の講座が十回にわたって行われる。

講師……星野紘、廣田律子、松平誠、鈴木正高、黄強、高山茂、野村伸一

主なテーマ……1]日本の農耕の祭りみたいなもの

2]歌垣と輪踊りみたいなもの

3]日本の来訪神みたいなもの

4]日本のシャーマニズムみたいなもの

5]円本の神楽みたいなもの

6]日本の鬼みたいなもの

7]男巫による厄払いのようなもの

問い合わせ……国際交流基金アジアセンターTel03-5562-3891

 

編集雑記 昨年の夏、体調が思わしくないままに本号の取材を行った。鼻水が止まらず、鼻からの呼吸は困難を極めた。そんな中、靖国神社で興行をする大寅興行、分方の西村太吉さん、それに釧路でサーカスの団員たちに会い、仕事ぶりを見たり、また図々しく押し掛けて話を聞くにつれ、体調のことをすっかり忘れさせてくれた。取材中「大寅さんのヨッちゃんは、裕子さんは元気か」と同業の仲間たちを気遣う言葉をかけてくる。私は、安田美里興行の春子さんの言葉を思い出した。「私たち(仮設興行)は仕事はライバルですが、みな助け合い、本当に仲がいいのです」と。飴細工師の坂入さんは、西村さんのことをオヤジと呼ぶ。家族よりも強い絆で結ばれ生きている人々を目の前に、饒舌にまくしたてる人間の空しさを感じざるをえなかった。西村さんは、父親の大事な身分証明書を見せてくれた。そして「一度、親の本籍地へ行ってみたい」とポツリと呟いた。私は何も言えなかった。(眞)

 

 

 

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