藤沢衛彦旧蔵の大蛇見世物の図 内亭夏良画「サンフランシスコ之産 支那人アキン持渡 大蛇之図」大判錦絵二枚続き、明治六年・浅草蔵前興行。講座『日本風俗史』第七巻に掲載の図と汚れやシミの位置まで一致する
思えば、この前後数年はなかなか不思議な時代で、『変態資料』『グロテスク』『風俗資料』などといった雑誌が数多く刊行され、そのなかで女相撲や人体異形の見世物などが、しばしば紹介されている。この「変態見世物史』を筆頭に、昭和七年(一九三二)刊行の松浦泉三郎『好色見世物志』(風俗資料刊行会)なども、そんな時代の産物といえるだろう。見世物の描写が多い伊藤晴雨『いろは引 江戸と東京風俗野史』全六巻(弘文館、六合館、城北書院)の刊行も、昭和二年から七年にかけてのことであった(図7])。
さて、衛彦で筆者が注目しておきたいのは、彼もまた打ち込んでいた「見世物絵」のコレクションである。外骨からはじまる見世物研究の系譜は、間違いなく「見世物絵」をひとつの柱とした研究の系譜なのである。衛彦はそれらを『日本版画美術全集第六巻 民俗版画』(講談社 昭和三十六年)、「日本見世物史」(「講座日本風俗史」第七巻 雄山閣出版 昭和三十四年)など、自己の著作で積極的に掲載紹介しており、貴重な図版も多い。各種の資料全体で恐らく数千点、「見世物絵」だけで数百点あったと思われるコレクションは、千葉県鴨川市に寄贈された摺物コレクションなど一部を除くと、残念ながら、ほぼ散逸したことが知られる。見世物関係の多くの部分は、没後かなり年月を経たのち、ある浮世絵商の手で名古屋の市で売り立てられ、これも転変を経て、何点かが架蔵となった。ここに一作品を紹介しておくこととする(図8])。
小粒で辛い、古河三樹
古河三樹(明治三十四年生‐平成七年没)は、『見世物の歴史』(雄山閣出版 一九七〇)の著者である。