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◎見世物小屋の人寄せ術◎

 

見世物小屋には独特の人寄せ・人掃け術がある。おどろおどろしい絵看板や人の好奇心をくすぐるタンカ・呼び込みが最たるものである。

見物人に最初に立ちはだかる〈ツキダシ〉といわれる外側の幕は、腰をかがめ頭を下げないと絵看板すら見えないようになっている。そうしたのぞき込むような姿勢をとらせることで、人々の好奇心を一層あおるようになっている。観客は中へ入るために〈クグリ〉幕をくぐると、見世物小屋の空間が映画館や劇場と違っていることに気づくであろう。入り口と出口が一続きになっており、桟敷といわれる立ち見の観客席も、その流れのなかに設定されているのである。舞台の演芸も入り口から出口方面に移りながらつぎつぎ演じられるのが通常で、いかに観客の回転(はけ)をよくするかを工夫している。

ビクバラシ

小屋の前、目立つところに、首から下が見えないように鏡を使ったビクバラシの箱を置き、中にカズさんが入っている。ビクとは首=クビを逆さにした隠語である。バラシはクビと胴がばらけて見えるところから命名されたのであろう。まるでさらし首のようだ。この細工が不思議に思われて、人を寄せ集めるのであろう。

グラシ

薄いカーテンの向こう舞台側に組んだ格子檻の中に、着物姿、髪を島田結ったフクちゃんが、背中を向けて座っている。これが〈たこ娘〉である。フクちゃんの上には、美しい着物姿の妙齢な〈たこ娘〉の絵看板が飾られ、着物の中から八本足が出ている。春子さんのタンカが客を引きつけ、たこ娘を演ずるフクちゃんの着物を脱がせ、上半身を裸にする。たこ娘のフクちゃんは、哀愁さそう古賀メロディーに操られるかのようにゆらゆら踊り、舞台の真ん中に向かうという春子さんのタンカで立ち上がり、すっと消えてしまう。実際には舞台に登場しないのである。外の客を引きつけるこの場所をグラシと呼んでいる。客が釣られて中に入ると舞台では全く別な演芸が行われているのである。安田さんの芸のように舞台での見せ物が魅力的だと、あっと舞台に引き込まれて、たこ娘のことなどすっかり忘れてしまう。しかし、舞台上が下手な芸人だと、たこ娘の所から動かず、呼び込みに騙されたと反感を買うことにもなってしまう。言い逃れに「学理の結論 隠身法」と書かれた立て看板がフクちゃんの裸の前にひっそり置かれている。

 

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お化け屋敷と見世物小屋が並ぶ秩父の夜祭り

 

 

 

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