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私は、もう一人の身体障害者、小人のナミちゃんの芸を見て、胸が締め付けられるような辛い気持ちになっていたが、何度か話したり、芸を見ているうちにそうした気持ちがだんだん消えていった。舞台で「皿回し」やナミちゃん十八番の逆さ踊り「おてもやん」を踊った後、観客に爆雷の拍手を受け、本当にうれしそうに晴れ晴れと笑っている顔が、なんと美しいことかと思った。誇らしく「この道一筋、三十年でございます」と観客に言い切っているのである。

 

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カズさん(右)とナミちゃん(左)

 

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フクちゃんにカツラの飾りをつける

 

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呼び込みをする春子さん(右)と奥にたこ娘のフクちゃん

 

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客が一人入るとゾロゾロ皆客が入る

 

障害を持つ人たちが、見られるという受け身の立場から、見せるという主体的な立場に転化させることで生き生きしている姿を、山鳥娘のナミちゃんのなかにみたように思った。売られ、買われて移る小屋、小屋で次々と太夫さんが亡くなることから、〈太夫殺し〉と噂をたてられたりして、辛い思いもしただろうが、やはりナミちゃんの六九歳の人生を、見世物小屋が救っていたのではないだろうか。

桟敷を見ていると、どうも良識ぶったインテリ風だけが、拍手をしていいのか、笑っちゃあいけないんじゃないかとか、あれこれ思案にくれて戸惑っていた。

 

 

 

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