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外部の雨仕舞いについて長期間にわたり殆ど修理されていない割りには良好な状態にある。又、柱脚部には腐朽損傷が認められないが、これは機械油が大量に滲み込んでいるためと考えられる。

室内の天井面は全面羽目板貼りで、木造架構全体が白色のペンキ仕上げとなっている。これは自然採光を有効に活かすための配慮と考えられる。

 

(4) ボイラー室

切妻屋根を有する単槽煉瓦造で、甍部分には円形の換気用ガラリを設置している。室内中央には大型のボイラーが設置されており、創業当初は石炭を使用していた為か、煤による汚濁があるが、木造屋根の木柄は充分大きく且つ煉瓦壁の厚みも基本的には堅固な構造となっている。

 

(5) 事務棟

当初は木造の下見板始りの洋風建物であるが、後の改造により正面左側にはRC造2階建の付属棟が設置され、又、右側半分が除去されているが、写真や現存部分から当初建物をほぼ推定復元することは可能である。規模も比較的小さく且つ他の建物とも独立しているので適宜詳細調査が望まれる。この点は周辺の屋根の落下した煉瓦造倉庫についても同様である。

 

4-2 構造対応について

 

(1) 保存活用の基本方針

当該工場建物群を後世にわたって適切に保存しつつ有効に活用するのに必要な構造対策の基本方針として下記の事項が列記される。尚第3項の耐震対策の詳細は現況調査結果に基づいて耐震診断を行い、これによって建物の耐震性能を把握した上で構造補強設計を行うものとする。

 

1] 応急的対策(Stabilization)

本格的な利用や構造対策の実施に到るまでの当面の処置として、現状以上に建物の構造的な損傷劣化が進行しないための応急的な対策が望まれる。

特に、雨水の浸透による木材の劣化はある段階を越えると急速に進行するので、雨水の排水経路の改善、とりわけ現在室内に雨が大量に浸入する部位については樋の補修や仮設的な雨養生を考慮する必要がある。

又、突出部の飾りなど強風時に落下して2次的な被害の発生する恐れのある部位については場合により撤去することも必要である。

煙突等については、地震時に折損して大被害を生じることもあるので、仮補強が困難な場合は危険範囲へ人がはいれないようにすることも一考である。

 

2] 修復(Repair)

本建物は建設以来70年以上を経過しているにも拘わらず、煉瓦壁体には大きな亀裂は生じておらず傾斜や不同沈下も一般に軽微である。又、構造架構にも大撓みなどの障害は目視では顕在化していない。

現在生じている損傷は煉瓦壁については開口周辺の隅角部亀裂や壁隅部の比較的幅の狭い亀裂の発生が生じたもので、部分的に目地モルタルの溶出や煉瓦の白化現象が付随している。これらは一般的に数十年を経過した煉瓦壁に共通して認められるレベルのもので、これらより本建物の煉瓦壁体の基礎並びに壁体の構造強度に関して著しい不具合の生じていたことを示している。

 

 

 

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