日本財団 図書館


第4章 建築構造について

(旧中林綿布工場の構造概要と将来の構造対策に関する所見)

 

当建物の沿革並びに現況については近畿大学桜井研究室の「旧中林綿布工場に関する調査報告書」(平成5年度)にまとめられているので、本稿では桜井博士の調査所見に基づき、将来の保存活用に当たっての基本的な構造対策の考え方についてまとめる。

 

4-1 構造概要

(1) 地盤状況

旧中林綿布工場は図1の地図に示すように、和泉丘陵の南端付近の洪積世台地に立地し、部分的には水量の比較的少ない河川の浸食により、河道沿いに段丘状の地形をなしている。

付近は中世より五門と称せられる集落が旧街道に沿って発達しており、南側約1kmの地点には城郭の名残りを止める石垣や防塁で囲まれた寺が残っていることなど、交通の要衝であるとともに紀州と泉州をつなぐ防衛上の拠点であったことを示している。

敷地の地盤状況は以上のような地形からも分かるように一般に良好で微視的な高低差に伴う埋土層を除くと煉瓦造建築の壁体などの重量物を支持するには比較的障害が少ないようである。

 

(2) 建物の構造概要

当該建物は以下の機能に応じた建築物の統合した生産施設で、周辺には隣接建物はほとんど存在しない独立した敷地計画が分かる。

1] 紡績工場棟1 煉瓦造 1階建

2] 紡績工場棟2 煉瓦造 1階建

3] ボイラー室 煉瓦造 1階建

4] 事務棟 木造 1階建

この他に、事務棟北側には煉瓦進上階建の晒倉庫群があるが、大部分は屋根が腐食して雨漏りの状況となっている。

 

(3) 紡績工場棟1,2

両工場の規模は異なるものの構造的には下記のような共通した構法を採用している。図2の平面図及び立面図に示すように、いずれも外周を独立した煉瓦壁の耐力壁構造とし、大空間の内部架構は鋸屋根を上築した木造架構である。

煉瓦壁は厚さ2枚、軒高17尺で、外部には間隔20尺毎に幅煉瓦2枚、突出部煉瓦2枚のバットレスを設けているが、外部開口は出入口などの数ケ所を除いて殆ど設けられていない。恐らく、工場内の採光は鋸屋根で充分得られることの他に、紡績工場として温湿度環境を一定に保つと共に、騒音が周辺へ漏れるのを防ぐという目的があったためと考えられる。

基礎構造については試掘調査が必要であるが、外周煉瓦壁の下部は連続布基礎、内部の木造架構についてはRC造の独立基礎と推定される。又、床面はころばし根太で全面木造板張りを基本とするが、紡績機械の設置部位は上記の架構とは独立した剛強なRC造の基礎となっており、機械の重量や振動に充分耐えて現在も殆ど亀裂や沈下等の障害は発生していない。

木造の鋸屋根の構造を図3に示す。主要断面寸法は柱寸、桁行方向トラス上下強材寸、母屋寸、垂木寸である。

架構は独立柱上に梁間方向に採光窓面を構成する平行弦トラスの下弦材を置いて柱繋ぎを兼ねるとともに、梁間方向からの勾配屋根の母屋を受ける構造を基本としている。

木造の鋸屋根については図4に示す形態のものが一般的であるが、本建物では梁間方向トラスを合理化しており、洋風の木造トラスに伝統的な和風の小屋組を加味した独特の構法を採用しており注目される。

屋根は和瓦葺きで、野地板の上に葺き上を充分敷き込んでいる。これは一つには屋根の断熱と台風などでの揚力への対策と考えられる。熨斗瓦についてはこれをセメントで固めているが当初からの技法かどうかについては検討を要する。

鋸屋根の大空間建築の課題として、円樋からの漏水があるが、当工場でも同様の障害が認められるが、総じて窓面等からの雨水の浸入は少なく、室内に設置された堅樋や同入れ孔付近の閉塞によるものが大部分である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION