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3-3 フォーラム「熊取赤煉瓦フォーラム」

 

(1) フォーラムの概要

くまとり煉瓦工場調査では、旧中林綿布工場の保存活用の方向を探るべく、ワークショップ調査を重ねてきた。その調査・討論の中で保存活用の基本的な考え方や課題が徐々に明らかにされつつある。そこでもっと広く町民の方々に中林の保存活用の課題を知っていただくことと、調査の中間報告も含めてフォーラムを開催した。12月5日(土)の午後から熊取町消防署のホールをお借りして、50名程の出席があった。

 

(2) 歴史を活かしたまちづくり

基調講演は、くまとり赤煉瓦工場調査委員長でもある三村浩史先生(関西福祉大学教授)に「歴史を活かしたまちづくり」と題してお話いただいた。

 

熊取は綿紡績の主要な拠点であり、また泉州は繊維産業により発達してきました。泉州地域にはノコギリ屋根の工場建築が残っていますが、ここの中林の場合は規模からも、つくりからも歴史からも本格的なものだと思います。これは産業遺産であると同時に熊取、泉州の地の近代発展史を示す証人だというふうに思う。この中で、人々が暮らし、働き、生き、地域をつくってきたという地域の証人ですので、産業遺産であると同時に地域の文化財でもあります。

また、立地の場所もいいところだと思います。

 

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基調講演の三村先生

 

きれいにすれば住吉川という川も流れていますし、中家住宅や、他の民家も泉州から紀州にかけての農業集落は非常に豊かなものですから、立派なお屋敷の町並みに囲まれているので、周りの環境からもいってもすぐれた存在ではないかと思います。

文化財というものは、国が指定して、例えば法隆寺のようにきちんと国の力で保護していくものもありますが、地域文化財というのはすべてが公共が責任を持つわけではありません。ユネスコの世界遺産の認定の条件の中にも、それ自体がすぐれた文化財であると同時にそれが地域の人たちに愛され、大切にされ、維持されているという支える力があることが条件になっています。中林綿布工場はそれ自体立派なものですが、地元の方が、ここを町の一つの文化的なシンボルゾーンとして守っていきたい、あんなふうに使っていきたい、こんなふうに活かしていきたいと、夢を持ってこれを支えるという力が非常に大切です。今回の調査でも単に専門家が行う調査ではなく、どういうふうに使いこなしていくか、ただ古いものを残していくだけでなく、残し方と使い方を次の世代に譲っていく。こういうことにおいて、文化的遺産となるわけです。そういう可能性があるということでナショナルトラストも大きな期待をしています。

文化財とは凍結的に維持されるものだけではなく、地域における文化財は生き物のようなもので、地域の支える力がないと廃墟になったりつぶされたりします。活用されると、ずっと新しい命をもっていきいきしています。それが活用という意味です。

活用の方策を考える、これにはソフトとハードがあります。建築的にみると維持管理の課題が大きいように思いますが、同時に活かしていく、生命を与えていくのはソフトです。ソフトは建物をどういう風に現代において捉えるかという一つの理念づけです。町民の方から考えていくことが必要です。もう一つはより具体的にどういう形で利用するかですが、利用の形はいくつか考えられます。大空間ですから、区分けしながら使うのか、多目的に使うのか、使い方は進行形で使いこなしていくような考え方が大切です。

 

 

 

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