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丘を登り寺まで行く。その石垣は大小の石を組み合わせ丁寧に積んだものだ。熊取町に住んでいてもなかなかまちの歴史に触れる機会がない、ここに来るのは初めてだという方も多い。突然、煉瓦の煙突が見えた。紡績工場の煙突である。30メートル程あろうか、空に向かって八角錐のフォルムが美しい。煉瓦も見たところ傷みが少ない。小さなお宮さんを見つける。その横には水間観音への道標がある。このあたりには細い路地がかなりある。狭い路地も子どもの頃はもっと広く感じたと地元の方は言う。この細い路地が昔のままの道であり、子どもの通学路であり、生活の道路である。もちろん狭い路地には車は通らない。

 

3] 煉瓦工場へ向かう

集落は予定の半分しか見ていないが時間がなくなったので、煉瓦工場へと向かう。水が死んでしまった住吉川を眺めながら、昔はここで泳いだり、野菜洗ったりしていたと言われる。今では川に近寄りたくもないほど汚れてしまっていて、そんな当時が想像できない。橋の下で回り込まなければ分からないが昔のかわとがそのままに残っていた。護岸にはコンクリートの三面張りではなく石垣が残る。水がよみがえると心地よい親水空間になるはずである。今のままでは、危険で汚れた川である。

 

4] 工場の中へ

入口の横にある事務所棟から見学する。木造平屋の近代建築であるが、東側3分の1は鉄骨造に改築され西側にのみ残っている。中はアーチのある窓から光が入り、木目の風合いが美しい天井板がよい。当時の綿布見本や金庫もある。

工場は足下に気をつけながら見てまわる。ノコギリ屋根が北に向いているのは、日の光の変動が少ないためだそうで、なるほど、だから一日中変わらぬ光が工場に差し込んでいる。しかし、綿布工場であった当時は相当換気条件が悪く、大変だったろうと思われる。綿布というのは工場内をある程度の湿気が必要で、霧が吹き出す製霧器が天井から所々に下がっている。当時の女工さんの労働はどんなものだったのかと、残っている織機を前にあれこれと話は合う。当時女工さんが多いときで400人いたと聞く。工場を出て煉瓦の塀がある小径をまわって中家へと戻る。ここには幅50cm程の堀があったそうだ。その堀の向こうに綿布工場があった。壁には塗り込められた窓が残る。工場長が女工さん目当てに来る騒がしい若い男の人の目から隠すためというものだ。

 

5] 綿布工場と地域の暮らしを考える

戻ってきてから、暮らしの目として自由な意見を出し合う。

<煉瓦工場がもつ良さ>

・煉瓦工場の中の広さと外からの感じが違って感じられた。

・煉瓦の色は心をなごませる。(ノスタルジア・歴史を感じさせる)

・煉瓦造りの建造物はこれまで思っていたより丈夫であると思った。

・大変すばらしい煉瓦の建物に感動した。また室内が以外と明るく採光の取り方が上手だと思った。

・外観の閉鎖性・内部の解放性

・建物、煉瓦のもつ柔らかいイメージの外観と工場のもつ生活臭いハードな設備(ボイラー等)の重厚感がある内部のコントラストがおもしろい。

<地域の良さ・歴史の豊かさ>

・立地(中家・川・跡地・工場の建物が一周、小一時間でまわれるので見学コースとし良い。

・中林煉瓦工場を見る視点(目の高さ)に変化がある。(五門寺から、住吉川から、中家から)

・町の中心的場所であるながら少しは入り込んでいるだけに静かである。

・水間への標から細道に至る場所の狭い感じが良かった。

・路地は生活の道である。歴史がそれぞれの道にある。

 

 

 

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