序章 調査の目的と進め方
(1) 調査の経緯
「旧中林綿布工場」は泉州の繊維工業の中核を担ってきた歴史をもち、昭和初期には全国屈指の生産を誇ってきたが、昭和40年後半からの繊維不況のなかで平成4年に廃業することとなった。廃業後取壊しが危惧されたが、工場主のご厚意により、工場が敷地共々熊取町に寄贈されるところとなり、保存活用への展望が開けることとなった。
熊取町ではそれを受けて平成5年に建物調査を実施し、現在保存活用の基本構想の策定を進めているところであるが、現在までの進め方はどちらかと言えば町主導で進められ、広く町民や専門家等の意見を集約する機会が無かったと言える。「旧中林綿布工場」は約6,000m2にのぼる大規模建物であり、隣接地は重要文化財の「中家住宅」を始めとする歴史文化ゾーンであることから、その保存活用に当たっては行政だけでなく、広く町民の理解と協力なしには実現は困難と思われる。そこで今回全国で歴史資産の保護とその調査に数多くの実績をもつ(財)日本ナショナルトラストの「観光資源保護調査」に応募し、その採択を受けるに至ったことから本調査が実施されることとなった。
(2) 目的と進め方
1] 目的
大阪府泉南郡熊取町に残る「旧中林綿布工場」の保存活用について、専門家、町民各層による調査・検討を行い、あるべき方策について提言として取りまとめることを目的とする。
2] (財)日本ナショナルトラスト調査の特質と進め方
(財)日本ナショナルトラストは運輸省所管の公益法人であり、行政から独立した第3者機関である。したがって行政が主体となる調査・検討では行いがたい自由な立場での検討が可能である。また、歴史的建造物の価値や利用方策についても、行政の考えに囚われることのない提言が出来るというメリットがある。今回もそのメリットを最大限に活かしたワークショップ方式による調査を行うものとする。
(3) 委員会とワークショップ
調査は「調査委員会」と「ワークショップ」で構成する。
1] 調査委員会
専門家、町民各界代表者から構成し、調査の方針、調査結果の検討、保存活用の方向を審議する。いわゆる審議会的役割を果たすものである。
2] ワークショップ
町民の各界、各層のこの問題に興味のある実践部隊で基本的に構成する。調査、作業の実施部隊でもある。事務局が運営するが、各ワークショップのテーマに合わせて講師等の参加を考える。
・メンバーは委員会所属の実践メンバーを数人づつ出してもらう。調査委員の人でもかまわない。
・広報等のよびかけで一般参加を募る。
・途中参加、1回だけの参加も可能な開かれたワークショップとする。
・事務局で毎回「ワークショップニュース」を発行する。これによって、常に会議内容を確認し合うとともに、一度抜けても次の参加がしやすい環境ができることとなる。