設定条件を満たし、かつ長期間連続して観測記録のある地点は15地点であった。その観測点の位置を図2.5に示している。ここでは選択された15地点を総合して年平均MATデータの系統的誤差の変動成分δT'を決定した。図2.6にδT'の年々の値および5年間移動平均値とその90%の信頼限界を示した。1875年以前は陸上観測点のデータが少ないので、1875年以降について値を示している。
また、1900年以前については誤差が正の大きな値となり、90%信頼限界の幅が大きい。これは海上気温の観測がまばらであり、しかも、高緯度では低緯度側に観測が集中していることから、海上気温が陸上気温に比較してやや高い値を示す結果となったと考えられる。1900年以後については第一次世界大戦および第二次世界大戦の1910年代後半および1940年代半ばの誤差が大きい。
これは山元らやJonesら(1986)の結果と一致している。これはFollandら(1984)やJonesら(1986)が述べているように、戦時中の船舶での気象観測が船室内で実施されたことが多かったためである。1970年代以降については、それまでに行われていた観測地点の移転や観測高度の変化によってやや正の値を示している。今回はOWSの観測期間である1950年頃〜1970年頃の観測データを基準にして解析を行ったので、1970年代以降については△T=0となる海域を見直さねばならない。以上の特別な事情のある時代を除くと、海上気温の系統的誤差は-0.1〜+0.2℃の範囲にあると考えられる。また、これは山元ら(1989)の結果-0.02〜+0.31℃(第一次および第二次世界大戦期を除く)と大きくかけ離れてはいない。
地球温暖化の問題を考慮する場合には、都市化の影響もあり、気候ノイズの大きな陸上気温よりも海上気温の方が有利であると述べたが、海上気温は時代による観測の事情や観測密度の違いから系統的な誤差をもっている。海上気温の場合はこのような誤差を正しく評価した後に、地球温暖化の問題を扱う必要がある。
1.3.3 風速の系統的誤差
時代と共に船舶が大型化し、それにつれて風速計の観測高度も高くなっている。また、以前は目視による観測であったが、次第に計測機器へ移行している。そのため風速の補正はそれらを考慮して行う必要がある。
風速の誤差評価の研究例として、轡田(1997)は観測方法や観測高度の変化を考慮し北太平洋海域における1961年以降の海上風を補正している。また、花輪ら(1998)は時代と共に観測方法にあまり変化のない海面気圧を用いて風速を算定している。
ここでは風速値の補正に関する調査を行っていないが、デジタル化したKoMMeDS-NFには、COADSのデータが少ない時代の風データや海面気圧データが含まれており、この種の研究に大いに貢献できるのではないかと考えられる。