例えば携帯電話にしてもそうですね、あっという間に値段が下がっていくと、そうするとそこに後から来ている衛星携帯電話というのがあります。衛星を使って電話をする。そうすると世界中どこにでも自分が持っている携帯電話1本で電話できますというものです。今これは何十万円もしますから、全然普及が低いんですけど、皆がそれに移ればあっという間に、それが普及する。そういう類のものです。
私としてもノンステップバスは、技術的なブレイクスルーによって絶対的に価値が高められたというものだと思っていますので、これはやがて慣性力が働くといいますか、自分自身の力でどんどん普及するというそういう時期に入っていくだろうと考えております。この類の問題としてあるのは、例えば環境にやさしいバス、これもこの財団の大きな柱だと伺っておりますけれど、これについても、環境にやさしいバスを造っても迷惑する人は誰もいない訳ですから、これも自ずから進んでいくと。自ずから進んでいくというのは、言い過ぎですけれど。進めていくことに関する合意には全員がOKする、誰もが歓迎するという問題だと思うんですね。これが我々が取り組む課題の1つのタイプであります。
今日主にお話ししたいのは2つめの課題なんです。2つめの種類の課題というのは、トレードオフが生じている問題ですね。全体としてパイが変わらない、変えられない、そういう中でトレードオフのバランスを変えていかなきゃいけない、変えていく。そういう課題・問題であります。
そういう問題が世の中大多数を締めている訳ですけれど、例えば電車があります。通勤電車。東京なんかでは朝ラッシュでものすごく混んでいます。そうしますと1人でも多く、お客を乗せたいので、今まであったシートを朝の時間畳んでしまう。そうすると畳めば、それなりに多くの人が乗れると。そうすると多くの人が乗れます。この問題は絶対的な価値が全体として上がるという訳にはいきませんで、一部にはやはりラッシュ時にも座りたいという人がいる。そうすると電車という広さ、パイが変わらない中で、1人でも多くの人に乗ってもらうか、椅子を出すかというトレードオフの問題を解決しなければいけない。これはどっちを取るにしろ、少なくても、どっちかの一部から反対が起こる話でございます。これは非常に分かりやすい問題なんですけれど。もっと複雑なことで言うと、我々都市交通の立場で言えば、一番の大きな問題は自動車があまりにも多過ぎるから、少し自動車を我慢してもらって公共交通を優先しようじゃないかという課題がありますね。これもまさにトレードオフ問題でありまして、それをやれば必ず自動車はこういう役目があってとか言って、答えは必ず全員が歓迎するものにはならない訳であります。こういう問題が非常に大きい。
中には、1番目のブレイクスルーと同時に、2番目のトレードオフの問題が生じている場合があります。一番わかりやすい例で言うと、自動車がそうですね。自動車というのは100年ほど前に起こった非常に歴史的なブレイクスルーだった訳ですけど、それで絶対的な時間節約という非常に大きな価値をもたらしてくれた訳です。ただ、あまりにもそれが増えたことによって、事故の問題とか、環境とか、或いは自動車が増え過ぎたことによって、時間節約が渋滞というものによってかえって損なわれているものがあるということです。自動車をどうするかという問題は、1つはブレイクスルーと同時にトレードオフをどうするかという問題を、我々に投げかけているという問題であります。