さらに、広域での高品質のデータ・プロダクツを生み出すためには海洋学的開発途上国に対しての指導・啓蒙活動も不可欠になる。この啓蒙・指導にも収集・管理・配布の問題に止まらず、データセンター組織へ流入してくるデータの高品質化への努力を忘れてはなるまい。
3.「異常値」を用いた品質管理の試み
北太平洋の塩分は北大西洋のそれに比べて著しく低く、日本近海において35.00を超すような高塩分水はほとんど観測されない。和歌山県水産試験場においてもその定線において、このような高塩分水が見出されたのは、観測体制が整備された1975年以降においては、只の1回だけである。我々はこのような高塩分水の出現頻度を確かめるため、JODCの保有する紀伊半島沖合いのデータセットを入手して解析したが、1975年以降においてこの海域で合計13の観測例があることが分かった(表1)。
この解析過程において、データの収集や品質の現状について種々の問題点が存在することが明らかになったので、それについて論じておこう。その一つは、最初の段階で誤って日本海で取られたデータについてサーベイしてしまったが、そこでも13の観測例が見つかったことである。一般に日本海の水は、比較的塩分値の高い対馬暖流水においても、東シナ海で沿岸水による混合希釈を受けているために、黒潮水に比べて低塩分である。
従って、このような異常高塩分水が日本海で見出されることは非常に考え難い。そこで、それを報告している観測機関をリストアップしてみると、すべてがある一つの非研究機関に属する船舶によっていることが分かった。これだけの資料から観測機関の信頼性を云々することはできないが、我々としては解析にあたって安全のためこの機関によって得られた資料は削除することにした。
しかしこのことは、「異常値」の解析を通して機関の信頼性を評価することができる可能性を示しており、長期の時系列解析において、古い観測資料の信頼性を調べる手段を与えるのではないかと考えている。
また、和歌山県水産試験場の観測資料が、少なくとも1975年以降では一つもJODCのファイルに含まれていないことである。このことはJODCでのデータ収集の努力が、やや外洋域中心に行われていること、水産試験場関連の古い資料にはデータの品質が限られている例があり品質管理に慎重過ぎたこと、その他多くの事情が存在しているようである。しかし、特に沿岸域においては、水産試験場が取得しているデータの割合は圧倒的に多い。MIRCでは都府県の水産試験場と協同して、データの品質管理を踏まえた形で、JODCへのデータの流入を改善する方策を考え、実現していきたいと考えている。