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3.2 海洋観測分野での実利用の可能性と課題

海洋観測においてSARがルーティン的に利用されている分野は、北極航路における船舶航行支援などまだ一部であり、特に日本では研究段階の分野がほとんどである。

SARを海洋観測に用いる場合の全体的な特徴は次のとおりである。

・観測レンジ 海面は表面粗度が小さく後方散乱も小さいため、陸域観測用に設定されたセンサではダイナミックレンジを十分生かせない可能性がある。海洋を対象とする場合はレンジの切り替えを行うのが望ましい。

・入射角 入射角が大きいと海面からの散乱が小さくなるため、海面の微妙な変化を対象とする場合には入射角は小さい方がよい。ただし、後方散乱の大きい対象(流氷・船舶など)については入射角を大きくとった方が有利なケースも考えられる。

・波長 SARは原理上、波長程度のスケールの粗度で強い散乱があるため、風波の波長に近い方が海面からの情報を得やすい。

次に各分野でのSARの実利用の可能性及び課題について検討した。

 

3.2.1 流氷観測

流氷観測は、日本周辺では冬期のオホーツク海において運輸、水産などの分野で重要である。

また、計画中のサハリン沖の海底油田開発に関しても必要になると考えられる。

現在は第一管区海上保安本部が分布・密接度に関して流氷情報を提供しているが、利用している観測データは、NOAA/AVHRR画像、航空機・ヘリ・船舶による目視観測、沿岸の流氷レーダなどである。空間解像度は流氷を対象とする場合は現在の30〜50m程度でも利用可能である。逆に空間解像度を上げることで観測幅が狭くなることが障害となるケースもあると思われる。入射角は大きい方が海面からの散乱が小さくなって良いと考えられるが、粗度の小さい新成氷では逆に検出できなくなる可能性もある。氷種(1年氷、多年氷など)の区別にはCバンドが良いという説もある。

SAR以外ではマイクロ波放射計により密接度が得られる。アメリカではDSMP衛星のSSM/Iが運用されている。マイクロ波放射計は直接密接度を計算できるものの空間解像度が数10kmと粗いため、広域の観測には適しているが航路の選定など局所的な利用には不向きである。

(1)分布・密接度

分布、密接度観測についてはSAR画像の目視判読による利用が可能である。しかし、SAR画像に見られる流氷のイメージと実際の流氷とは必ずしも一致しないため、判読精度を高めるためには判読幸一(判読上の留意項目)を蓄積していく必要がある。

流氷の自動抽出は流氷と海面の輝度差がある場合は比較的容易であるが、海面に風波による高い輝度が見られる場合や、海面に新成氷がある場合などでは必ずしも分離できるとは限らない。画像解析による方法としては、各種統計値の利用、テクスチャ解析、局所的なFFT解析などが考えられる。

(2)移動

移動に関してはいくつかの研究例があり流氷の移動が大きくない場合や観測の時間間隔が小さい場合などには個々の流氷の移動が検出可能であるとされている。しかし、オホーツク海では風と海流による流氷の移動が早いため、現在の衛星の回帰周期(最短で2〜4日)では十分には対応できない。また、流氷分布を流氷移動モデルの初期値として移動を予測する研究が進められている。将来的には気象予報と同様に流氷分布の現況と予測を利用者に配信することも考えられる。

 

 

 

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