第1章 研究の概要
1.1 研究の目的
航海に必要とされる海況の把握には、海洋観測データが利用されている。海洋観測データの取得には、船艇、観測ブイ、観測衛星等が利用されているが船艇や観測ブイの使用には莫大な経費がかかり、また観測衛星による場合は雲等の障害があり、航海に必要とする海洋データは必ずしも充分とは言えない現状にある。
近年、合成開口レーダの技術が開発されたことにより、衛星からのデータにより陸域では高精度の大縮尺地形図の作成や微少断層の発見等の研究が進められているが、海洋への利用については、航空機に搭載し遭難船の発見等の捜索実験、油拡散の検出等に試みられている程度である。
本手法はレーダによる撮像であることから、観測は全天候型であり昼夜の制限もない特徴を有する。レーダから得られる海面の微少な凹凸から風、波浪、海流、海氷等を抽出する解析手法の開発・有効性を検証することにより、新しいセンサーによる高能率な海洋観測手法の確立を試み、海難の防止、航行船舶の安全等に寄与することを目的とするものである。
1.2 研究内容の概要
本事業の目的に沿い、合成開口レーダ画像データ及び関連する船舶等の海況データを収集するとともに解析等の研究を平成8年から3ヵ年で実施した。
平成8年度は文献収集・ヒアリングにより利用可能な合成開口レーダの特徴、海洋観測への応用例、応用可能性等について取りまとめた。平成9年度では前年度の研究を受けて具体的な観測対象として海氷を取り上げ、オホーツク海のRADARSAT画像から流氷を抽出する解析手法を研究した。
平成10年度の研究では、平成9年度に引き続き流氷の解析を行うとともに、波浪・海流を対象として解析を行った。また、航空機搭載型合成開口レーダについても検討を行う予定であったが、実際のデータが入手できなかったため、既存の知見による検討にとどめた。
さらに3ヶ年の研究成果について取りまとめ、合成開口レーダによる海域情報解析技術を総合的に評価した。
(研究計画全体及び平成8、9年度については、調査研究資料79、86を参照のこと)
(1)流氷解析
・ 平成9年度に実施した流氷抽出手法について、その他の画像を対象として一般化
・ より高精度に流水を抽出するために、平均・標準偏差以外のパラメータを導入するなどの解析手法を検討
(2)波浪・海流解析
・ 利用可能な衛星搭載型の合成開口レーダ画像データ及び関連する海況データの検索・収集及び整理・解析
・ 衛星搭載型のデータについての必要な補正処理を施し、海況データとの比較・分析
・ 衛星搭載型のデータについて海況要素、特に波浪、海流等の把握の可能性を検討
(3)総合評価及びまとめ
・ 流氷及び波浪、海流を対象とした解析手法を総合的に検討・評価
・ 調査研究の過程・内容及び結果を取りまとめ報告書を作成