5. 成果と今後の活用
(1) 成果
(i) CFDシミュレータの高度化
船型最適化システムの基本要素となる各種のCFDの高度化を計った。すなわち、これまでのSR研究等で開発された粘性流場計算コード(NICE法、WISDAM法)に対して、推進性能計算および操縦性能計算における格子生成の標準化を図り、計算のアルゴリズムを改良した計算時間の大幅な短縮、船体とプロペラの干渉影響の計算精度の向上、操縦運動時の乱流モデルの改良とZ試験シミュレータの開発など、CFDの高度化を図った。操縦運動シミュレータの高度化により、推進性能のみならず操縦性能も考慮した性能評価が可能となった。造波抵抗計算法についてはランキン・ソース法の改良研究を実施し、造波抵抗成分が比較的大きい船型に対しては実用的にも十分な精度で推定可能となった。
(ii) 船型最適化計算法の開発
粘性抵抗あるいは造波抵抗を最小とする船型を直接計算する方法を開発した。粘性抵抗最小船型の計算手法は、CFDシミュレータに感度解析手法と非線型計画法を組み込んで、与えられた母船型と拘束条件のもとに粘性抵抗を最小とする船型を自動的に計算して求める方法であり、粘性抵抗成分の大きいタンカー等の肥大船型の改良に有力な設計ツールを完成させた。
ランキン・ソース法による波や圧力の情報から、最小造波抵抗となる船型を直接求める方法を開発し、コンテナ船等の造波抵抗成分が比較的大きい船型に対して、船型改良の指針を与えるツールとして実用化した。
(iii) 船型の最適化システムの構築
船型改良の方法として、複数の船型を与えて性能比較計算を行って優良船型を選択する方法および船型に拘束条件を与えて粘性抵抗あるいは造波抵抗の最小船型を直接計算する方法を備えたシステムを構築した。本システムでは構成要素間のインターフェースの整備、データ交換の効率化、各種シミュレータの高精度化、計算時間の高速化等の技術を導入することによってシステム全体の効率化を図った。
従来の経験的知識ベースや水槽試験を用いた船型改良手法に対し、CFDを用いたSimulation Based Designに基づいた性能評価システムの構築に成功した。これによって船型の推進性能のみならず操縦性能の評価が可能となり、また、これまで高度な経験に頼っていた船型の最適設計をコンピュータによって自動化できる可能性が生まれた。
線図CADとCFD計算のあいだの船型データの交換に関して、標準IGES形式によるデータ交換機能を有しているが、生産CIMとの結合をも視野に入れて、国際標準であるSTEP形式を容易に適用可能であることを検証した。