●由良の言葉と人柄
私は中学の国語の教師をしていた頃から、由良地区の言葉の研究をしてきました。由良の言葉を中心に、生活や歴史に触れたいと思います。
由良は言葉の宝庫です。大正時代から方言学者のほとんどが訪れています。それは由良の言葉は特徴があるからです。由良の人はある種の言語劣等感を持っています。由良の言葉はどちらかというと家の中で使われる言葉ですが、その特徴は、言葉は優しくても非常に語気が荒い点です。他地域の人が聞いたら喧嘩しているように聞こえます。
●由良の歴史
平成6年に生石・成ヶ島ビジョン研究会で、由良の郷土史家の五島先生が洲本市史の年表から由良に関わることを抜き出されました。それを利用して由良の歴史について説明します。
町の人は由良のことを「ユーラ」と伸ばして言います。651年に「枯野(船名)の歌に由良の門の語あり」と書いてますが、「由良」という言葉が初めて出てきたものだそうです。「由良の門(ゆらのと)」とは由良の海峡です。「由良の門」は淡路の由良と紀伊と丹波の3ヶ所の由良です。由良の地名は狭い平地を波に押された砂が平らにするとい意味だそうです。
「淡路国名所図絵」の注釈に「枯野の歌」の説明があります。朽ち果てた枯野という船を焼いたら500カゴの塩が取れた。余った朽ち木で琴を作ってかき鳴らすと、由良の門の中の岩石の上に生えている水づきのように、さやさやと響いたという歌です。その時に集まった500隻の船を集めて海運の便を図ったと書かれています。天慶1年(938年)の日本で最初の辞書「倭名類聚妙」には「由良」は載っていません。これは七不思議です。この当時は由良という集落はなかったのかもしれません。
正平5年(1350年)に「安宅頼藤、足利義詮の命により沼島阿万海賊退治のため熊野から由良へ移る」とあります。今の古城跡の所に来たようです。文安2年(1445年)には「由良船によって阿波塩を積み出す」とあり、由良はたくさんの船が出入りする港でした。永正4年(1507年)「三好長慶の弟冬康、由良城主安宅家をつぐ」とあります。熊野水軍の流れの一族である安宅家は淡路に8つの本拠地を備えていました。それが「どんでん山」です。天正9年に豊臣秀吉らとの争いで安宅氏が滅亡します。そして、由良に成山城が作られます。「成山」は昔「城山」と言われ、「法螺貝を鳴らす」の「鳴山」がつけられ、それがやがて「成山」になったと言われています。その成山城も1631年の「由良引け」で廃城になります。
●村人の生活-海との関わり
ここで由良引けまでの村人の生活を見てみます。由良は洲本の城下より2里程東南にありました。「当湊は紀伊国海部郡を去ることおほよそ三里ばかり。長汀海に出でて港の内広く、諸州の海舶来たり、ここに泊まる事多し、国君の里邸(おんやしき)をはじめ、漁家・商家、軒を並べ終日交易に隙なく、至って繁栄の浦里なり」とあります。商売が繁盛し、城下町の一つの形になっていました。「漁夫は澳(おき)に魚蝦(うをえび)をとりて広邑(こうゆう)に衒(ひさ)ぎ、妻は磯に海髪をとり戴きもちて国中に売る」とあります。海髪(いぎす)は非常に高価な海草だったようです。私の小さい頃まではお盆には海髪を使ってところてんのように作り食べてました。山中にはコマドリやウグイスも飛び、洲崎の砂松や向かいの紀伊国の伴が島(友ヶ島)の緑螺(りょくら)は賞すべきものでした。
1635年に由良引けが終わり、武家屋敷も商売人も8つのお寺も洲本に移ってます。そして、洲本は発展しました。その時由良の人が作った「由良がましかよ、洲本がましか、由良がましじゃよ、船着きじゃ」という歌では、ここで自分らが生きていくのは港しかないと歌ってます。その後、変わらないのはこの海との切っても切れない生活です。
●新川口・今川口の開削
明和2年(1765年)、人家や田圃のあった成山と由良4丁目との間で由良新川口の開削工事が始まり、翌年完成しました。古川口は、船の運航に支障があったため閉め元の川口を狭くし、代わりに新川口を思い切り開けたわけです。
この時もう一つ入り口があれば、両方から出入りができるということで、寛政1年(1789年)に生石と高崎間の今川口の開削が始まります。この今川口は狭くて深く流れが急なので、大きな船は出入りできませんでした。新川口ができた時に帆別銭という制度ができ、船が1隻港に入るたびに、入港料や停泊料を取りました。最終的には、菱垣廻船などの持ち主と契約して、港はだいぶ栄えたようです。
●敗戦後の衰退
明治27年(1894年)、由良重砲兵隊創設、同29年(1896年)、由良要塞司令部開設とあります。こうした軍国主義が昭和20年まで続きます。しかし、昭和4年(1929年)に出版された本にはあまり触れられてません。由良要塞の記述が消されていました。当時、いいことと言えば、軍隊があって賑わいがあったということです。