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ワークショップvol.6

人工島と海辺の環境づくり

 

講演「大阪港の海底土と舞洲陶芸村構想」

吉田喜久一氏/舞洲陶芸館館長

 

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講演中の吉田氏

 

●海底土との出会い

舞洲陶芸館の話が進み方向が固まってきた頃に、当時の大阪市港湾局の計画部長が処分に困っている海底土を使ってくれたらありがたいという話をされました。その粘土は砂利、セメントなどを混ぜなければ埋立には使えず、費用がかかります。それが無尽蔵にあります。それまで私は川の底のヘドロを使って釉薬を作ることを考えていました。よく考えてみればそれも海底土もほとんど代わりはない。そこでその海底土を20kgぐらい頂き研究してみることになりました。

 

●「難波津焼」の誕生

海底土の分析をすると、珪酸などの含有量が普通の地殻並みにあるなど、組成の状況は普通の造岩鉱物と変わらないことがわかりました。違いは、珪石分の媒熔剤になる物質が非常に多いということと、非常に可塑性があるということ。焼き物にとって可塑性は大事ですが、科学的には作れません。珪酸などの成分を入れて調整するなど、2年位かかって焼き物を作り上げました。西尾前市長に「難波津焼」と命名していただき、まもなく大阪の焼き物として新聞発表しました。

 

●海底土を精製する際の問題

海底土から焼き物を本格的に作るまで、結局足掛け5年程かかりました。最初に頂いた海底土は関空整備の際の洪積層の粘土で非常に混じりけが少なく、粒子の大きさも安定しており、扱いも楽でした。ところが後から頂いたのは、咲洲トンネルを作ったときの海底土で、時期的には1000年から1万年くらい前の粘土。組成も非常にムラがあり、いろんな有機物が入っており、なかなか思うようになりませんでした。

一番支障になったのは精製の方法でした。貝殻や時には人骨などの自然の廃棄物と人間の捨てたものが一緒になっています。そういうものを分離して品質を安定させなければならない。また、粒子が小さいので乾燥させるのが大変でした。粘土を作るには乾燥させてから水簸(すいひ)という行程を踏むが、ものによっては1年たっても乾かない。自然の水簸は、乾いた粘土を水槽に入れてかき混ぜ、粒子の荒いものが沈殿したあと、上澄みを別の桶に入れて、さらに沈殿するのを待つ。沈殿したら上澄みを捨て、下の固まった粘土を取る。その水簸作業に入るまで大変時間がかかりました。

 

●粘土精製機の開発

乾燥させずに生の粘土のまま水簸する方法はないだろうか、と悩んでいたら、弟子の一人が山で採ってきた春蘭(しゅんらん)の根をシャワーで強く洗い土がきれいに取れるのを見て、はっと気づきました。あるメーカーで鉄鋼や石を水圧で切る機械を作っている私の絵の時代の弟子がいて、彼に相談したところ、水圧ジェット粘土粉砕装置を考案してくれました。これで貝殻や他のゴミを取り除き、粘土だけになって、水簸出来る状態に直ちになる。

この水簸プレスについては、排水処理など、水を浄化するために汚物を抜き取るときのプレスを作るメーカーを紹介されました。1年程で一般のプレス機の10分の1位の値段でこれをつくっていただきました。そのラインで1日約600kgの粘土を生産しています。これを使えば、無尽蔵にある海底土は全部焼き物の材料になるという見通しがたつわけです。

 

●他の産地に負けない粘土と釉薬づくりを目指して

陶芸館で市民の陶芸教室を開催しています。また、将来の難波津焼の担い手として研究生が何人か勉強しています。彼らに将来難波津焼を担ってもらおうと考えていますが、当面は粘土作りです。信楽や立杭などの粘土産地は協同組合を作り集中生産しています。その方が品質は安定し、コストも安い。大阪にはそれがないので自分で作らなければなりません。釉薬の研究開発機能も大阪にはないので自らやっています。

そんな風に一から焼き物の活動をしています。将来は難波津焼を大阪の焼き物として世に出していきたい。そのためには出来上がった作品が先輩産地の作品に見劣りしないものにしていかなくてはいけない。ろくろなどの技術より土や釉薬で産地に負けないものに仕上げるという課題があります。

 

●焼き物の粘土の枯渇

陸の粘土が枯渇しています。私はここに来るまで壁面の彫刻など大きなものを伊賀焼で作っていました。多いときは土を10tくらい使いました。大量の均質な粘土は業者から手に入りません。どうしても品質が変わる。仕方がないので信楽や伊賀の土を使い自分で粘土を作りました。しかし、伊賀焼の土が採れる山々がゴルフ場などとなり、埋蔵量はほどほどにあるものの採集できなくなりました。そういうことが伊賀だけでなく信楽でも瀬戸でも起こっています。

 

 

 

 

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