日本財団 図書館


6]地球環境問題などへの対処の実験の場としての役割を果たす必要がある。例えば4]との関係からすれば移動に際して公共交通体系の利用の便が高いことや都市に多くの人が集中して住むことに伴うコンパクトな街づくりの省エネルギー性が重視されている。この他にも、中心市街地の場の特性を活かして、都市の安全性・快適性の低下という点に関して都市内交通問題に対する取組も重要である。例えば、中心市街地は、限られたエリアの中に商店が集積することによって、一般に歩行圏で買い物が楽しめるという強みを有していた。しかし、公共交通の衰退によって、買い物における車利用が増えてきた。これによって市街地内の通過交通が増加し、交通混雑、高密度利用に伴う駐車場の不足・路上駐車の増加に伴い、安全性に問題が生じている。例えば、「若い女性の買物動向調査報告書」において前橋市の中心商店街が「事故などの心配をしないで街を歩ける」かどうかの評価で約25%が「あまり感じない」・「全く感じない」と評価されている。とくに、車の保有率が全国平均の1.6倍になるという群馬県ではこの問題が顕著に生じている。このようなことを反映して、群馬県は交通事故数や年間死傷者数、人口10万人あたり死傷者数のいずれをとっても、高い水準にある。中心市街地においてこのような問題に対処していくことが必要とされよう。

7]中心市街地が単に高齢化し、停滞した地域のイメージが形成されるばかりでなく、スラム化する形で居住環境がより一層悪化することが懸念される。この点は、まだ国内では表面化していないが、海外とくにアメリカにおいてはダウンタウンのスラム化、危険地帯化の傾向が著しい。スラム化したダウンタウンの再生に向けては、これまでは主としてクリアランスによって対処されてきたが、多くの場合、既存住民の生活基盤を掘り崩し、地域のアイデンティティの喪失につながってきたということでの反省が、『都市再生』(R・グランツ著、晶文社)などにおいて紹介されている。一旦スラム化し、住民が逃げ出した中心市街地を再生することは非常に困難であるだけに、中心市街地の活性化は、将来起こるかもしれないこのような問題地域の発生を避けるためにも必要であろう。

 

以上のように、中心市街地は単なる過去の遺産ではなく、現在地域が抱える問題点に対処するための様々な取組を行うための重要な資産、市民の共有資産と考えておく必要性があろう。

 

3 中心市街地再生の課題

前節の1でみたように中心市街地は、原因と結果が複雑に絡み合う大きな問題点を抱えている。しかし、他方で、前節の2でみたように中心市街地は地域住民にとって極めて重要な価値を持った地域でもある。そのため、このような地域の抱える問題点を解決していくためには、次頁の図表に示すような多様な課題を解決していく必要がある。

まず一つには、中心市街地の持つ空間的な制約を解消するためのまちづくり面の課題である。中心市街地の優位性をアピールしていくためには、その抱える地域条件面で郊外地と比べた場合の劣位性を解消していくこと………生活環境の改善………が必要である。これは、後で触れる中心市街地の商業者にとっては、商圏の大きさを担保する一つの要件にもなろう。この課題に関しては以下のような方向での取組が必要であろう。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION