(3) 事例の特徴
前節のア(ウも同様)に対しては、地方都市の中心市街地の商業者は、従来、大規模店舗法の規制によって、競争環境から隔離されてきたが、今後は様々な制約条件を解消していきながら、大規模商業施設を展開する企業との競争にうち勝っていくことが必要である。さしあたって消費者から支持を受けている大規模店舗の特徴と比較した場合の個店の特徴(地域の歴史・伝統を体現し地域の顔としてアイデンティティを担いうる、など)は何であり、どのようにそれをアピールしていくかを明確にし、対策を講じていく必要がある。しかし、具体的な対応策を立てるにあたっては、構想される対策の効果が確信できるわけではないことから、リスクを負担してまでやろうとする動きにつながらないというのが現状である。これが、「何事も総論賛成各論反対で、金を出すのは嫌、人がやってくれるのならよいが自分たちで何かをやろうという意識、意欲はない、商店街をまとめるだけの人材も見当たらない」などの指摘につながっている。中心商店街及び商店主をめぐる状況は厳しいものがある。
前節のイについては、これまでの都市づくりの方針に大きく関わっている。すなわち、都市の計画的整備が戦災復興などを契機に長期にわたって中心部から周辺部へと展開する中で狭隘な中心市街地からの人口分散を図り良好な居住環境を住民に提供していく、そして、これと運動して集客性をもった公的施設が周辺部にも整備することによって郊外居住者に対してはできるだけ日常の生活に関しては居住地域周辺で用事が済むようにしていくという事業展開の中で、中心市街地の人口が減少し、居住者の高齢化が進むという結果をもたらしたものである。この点に関しては、都市づくりの方針に関わるものであり、都市の発展力との兼ね合いのもとで、今後もこのような方針のもとで都市計画事業を進めていくべきかどうか………郊外居住を一層進めるのかどうか、郊外居住者の負担のもとで中心市街地でなければ用件が済まない状況をつくり出すかどうか、単に中心市街地での駐車場や公共交通体系整備など都市インフラ整備を進めることによって郊外店との競争条件を改善しあとは商業者の努力次第とする、など………の方針を確定していくことが必要である。
2 中心市街地活性化の必要性
中心市街地とその地域を代表する既存商業集積は、前節でみたように、現在では規制緩和によって無条件の競争環境におかれてしまっている。この結果、後にみるように中心部の零細商店ばかりでなく、都心型の百貨店などの大規模店もが厳しい事業環境の中にある。しかし、単なる経済活動という点ではなく、視点を変えてみると都市の中心市街地は以下に示すような意味で重要性をもっているといえよう。
1]長い歴史の中で地域の文化・伝統を育んできた、町の顔ともいうべき地域である。祭り・イベント、交流などのためのハレの場としての性格を有している地域である。すなわち、郊外に展開している大規模商業集積は、店舗展開をしている「企業としてのアイデンティティ」をアピールするのであり、立地地域の歴史・文化性をアピールするわけではない。その意味で、無国籍型である。したがって、地域間競争力の要素となって、他地域から人を集める効果はない。地域の歴史・文化は、地域の個性を生かしアイデンティティを形成することによって、地域の人々に地元を愛する意識をもってもらう契機になる。また、地域のアイデンティティは、同時により広域からの人を引きつける要素にもなる。都市間競争の時代にあって、地域特性(他にないもの)を活かすことによって優位性を発揮する戦略的拠点としての位置づけをすることが可能になる。