3]「下級」の「上級」への依存については、連邦構成主体予算と地方自治体予算の関係でとくに問題が多い。地方自治体を市民自治の基盤として重視する1995年の法律がある一方で、財政関係では1993年の法律に基づいて、地方自治体予算は構成主体予算の下位に位置づけられている。こうした法制度上の齟齬が、財政上の相互関係の維持にとって大きな障害となっている。
2 歳入・歳出の構造
ロシア連邦の地方財政(ここでは連邦構成主体の財政)の歳入・歳出構造を詳細に検討しようとする場合、大きな障害が存在する。ロシア連邦財務省の公表する数値に基づいて、89構成主体の予算の総額である「統合予算」に関して、歳入・歳出の動向を把握することは可能である。しかし、財政能力に極端に大きな格差の存在する89構成主体の統合予算で、歳入中に占める連邦予算からの移転資金の平均的比重(一定の制約はあるが「中央財政への依存度」と見なすことができる)が示されても、それが個々の構成主体の財政の実態をどれだけ反映しているかは疑問の余地が多い。下の図表6-1は、ロシア連邦財務省の公表した統計に基づいて田畑教授がまとめたものだが、連邦予算からの移転資金が構成主体統合予算の歳入に占める比重は、一部の構成主体や地方自治体にのみ移転されている
(注1)すべての構成主体の予算の総和であり、また、構成主体内の地方自治体の予算を包摂した「統合予算」である。
(注2)統合予算であるために、自治体予算に繰り入れられる個人所得税も計上されている。
(注3)「補助金」はモスクワ市とソチ市にのみ支出されている。
(注4)「交付金」は核エネルギー及び戦略兵器の生産が行われてきた「閉鎖都市」に対してのみ支出されている。
(注5)短期貸付は出納上の資金不足を補うために連邦から構成主体に貸し付けられる無利子の融資である。本来は年度内に「移転資金」と相殺されて回収される。
出所:田畑伸一郎(北海道大学スラブ研究センター教授)、Transfers from Federal to Regional Budgets in Russia: A Statistical Analysis Post-Soviet Geography and Economics, 1998, 39 No.8 pp.447-460