こうした判決は、地方自治の実現への司法の役割を強調することになるが、いまのところ、法整備過程の過渡的段階における構成主体と地方自治機関のあいだの権限争いで、裁判所という形をとって連邦権力がそれに介入する、そのかぎりで立憲主義の要請に裁判所が積極的役割を果たしているといったレベルにとどまるものであろう。ここでは、地方自治をめぐる裁判が、憲法裁判所のみでなく、通常裁判所においても審理されている事実に注目しておきたい。
(2) 自治体勤務法の制定
その後1998年1月になって、ロシアでは、「ロシア連邦における自治体勤務の原則に関する法律」(資料編収録)が制定された(18)。これは、「国家勤務法」に対応する「自治体勤務法」で、地方公務員法にあたるものといえる。この法律の紹介は、ここでの課題ではないので、ひとこと指摘するにとどめたい。
自治体勤務とは、選挙によらない自治体職務を日常的に遂行する専門的活動であるが、自治体勤務の基本原則として、1)自治体職員の職務上の義務の執行及び権利の保障にあたって、ロシア連邦憲法、連邦法律及び構成主体の法律その他が行政法規や内部通達に優先し、2)人と市民の権利及び自由の優先、その直接的効力を保証することをあげているのは当然として、3)職務上の義務の不履行または不適切な履行に対する自治体職員の責任と、4)自治体職員の政党所属の禁止を定めている点が注目される。
自治体勤務に関連する制限としては、兼職禁止条項(基本的に他の有給の仕事や、議員となり、または企業活動を行なうこと)と地位利用・便利供与受入れの禁止条項(職務上の情報提供、贈物・物品供与を受けること、企業等の資金での旅行など)が目につくとともに、政治的、社会的権利の制約として、ストライキに参加することと、地方自治機関において、政党、宗教団体、その他の社会団体(労働組合の除く)の支部組織を組織することが禁止されている。公務員法制上、憲法の人権規定との整合性が問われるところであるが、従来のいわゆるアパラチキ(公的機関の指導的な勤務員)がソビエト体制における官僚主義やノメンクラトゥーラにどっぷり浸かってきたこと、そしてそれが丸ごと共産党支配の道具とされてきたことを考慮すると、こうした規定をおく事情は理解できなくはないが、かえって地方自治機関における職員の特権層化を助長するかまったくの無権利化をもたらしかねないかの疑念は強く成るところである。