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ロシア国内での1995年の地方自治法の制定の本格的な作業は、1994年3月に政府部内で始まっている。その年の5月に、連邦議会、大統領府、政府、関連省庁、学術団体、社会団体の代表により合同作業グループが編成され、対抗して下院の議員グループが対案を提出し、それが下院の審議ルートにのせられていくというように、制定過程自体に対抗の契機を内包していた。この草案も2400以上の修正提案(そのうち87の団体、機関からのもの約1000)を受け、1995年夏にようやくにして制定の運びとなったのである(9)

したがって、地方自治法の制定過程では、それを推進するグループもそれを押し止めようとするグループもあった。積極的支持グループもあれば、受動的支持派もあり、地方自治を導入することにそもそも反対である保守的・抑止的グループも存在した。ロシアの地方自治法制の確立過程で、考慮すべきは、帝政時代の地方改革への肯定的評価を前提にし、それに加えて、脱ソビエト化にともなう立憲主義への途上において、西欧型の地方自治が模索され、それらが相互に対抗しあい、かつ補完しあうという状況にあったことであろう。しかも、地方においてソビエト制の担ってきた現実的力は依然として地方自治の現場でその権力も能力も維持しているという事情が付加される。こうした過程で、ヨーロッパ地方自治憲章に言及しながら、制定過程の議論を紹介したものは実はほとんどない。そのなかで、スリーヴァが、地方自治法の制定過程における議論において、地方自治体における代表機関と行政長官(首長)の関係にふれつつ、地方自治(体)の選挙制の代表機関の役割を軽視しようとする企図がしばしば見られ、それはロシアの伝統にもヨーロッパ地方自治憲章にも反するものであると主張していたのは、注目しておいてよい(10)

 

(2) ロシア憲法と地方自治憲章の理解

 

(=地方自治憲章の示す地方自治のパラメータ)

ロシア憲法との関連で、地方自治憲章はどのように位置づけられているのであろうか。

現在憲法裁判所の長官を務めるバグライが中心になって作った憲法教科書(11)によれば、地方自治憲章が示す地方自治のパラメータは、およそ以下のように整理される。

1]地方自治はあらゆる民主主義体制の基礎のひとつであること、2]市民の国家的事項の管理に参加する権利は地方レベルにおいてこそ実現可能であること、3]地方自治機関による市民にとっての効率的かつ魅惑的な行政の保障は確保されていること、4]地方自治の強化による民主主義の発展と権力の分権化の発展への寄与をはかること、5]民主的方法で樹立された地方自治による権限の行使や必要な資金にける広範な自治権を保障すること、6]地方自治の原則を法律と憲法において保障すること、7]地方自治及びその担い手の権利を承認すること、8]地方自治の法的規制の範囲及び限界が明らかにされていること、9]地方自治体がその権限を自由に、すなわち独立的、自主的に行使することができるという原則が確認されていること、10]地方自治に対する行政的規制の限界と対象が法的に制限されていること、11]とりわけ、裁判による保護を受ける権利を含めて、地方自治の法的保証がなされていること、以上である。これらは、自治憲章の各条項にそれぞれ対応したものであり、特別の強調点が見られるわけではない。

 

 

 

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