しかし、地方自治・地方行政に関連する事柄すべてが、同省に一元化されているわけではない。基礎自治体の活動の基礎となる予算財政は、財務省が担当している。また、基礎自治体の諸課題との関連で社会秩序維持(警察)は内務省、教育は文化教育省というふうに、事業に応じてそれぞれ担当省庁がある。
行政区分改編は地域開発公共事業省の担当だが、改編に際して、他の中央省庁や国家組織は必ずしもその出先機関や組織の統廃合、再編を徹底するわけではない。裁判所、軍隊、文化教育、厚生、公文書館などの機構は、1987年の旧県(オクラク)廃止、県(オブラスト)設置の改編に対応せず、関連機関の統廃合を行わなかった。その結果生じた新旧両構造の併存は、地方自治体や住民にとっては、用件によって訪問する場所さえも変わりかねない煩雑な状況を意味し、中央政府にとっては中途半端のまま挫折することになる改編事業を意味した。
(2) 県(オブラスト)
県は9つ、ソフィア、プロヴディフ、ハスコヴォ、ブルガス、ヴァルナ、ルセ、ロヴェチ、モンタナ、そして県と同じ位置づけがなされる首都ソフィアである(ブルガリア語では「ソフィイスカ・オブラスト」といえばブルガリア南西部の県をさし、「オブラスト・ソフィア」といえば県と同格の首都(ソフィア)のことをさしている。いずれの庁舎も首都ソフィアに所在している。)。
県の地域はブルガリア共和国行政機構法の規定にあるように1つ(首都ソフィアの場合)あるいは複数の隣接する基礎自治体から構成される。それぞれの県に含まれる基礎自治体の数は、ソフィア(50)、プロヴディフ(34)、ハスコヴォ(27)、ブルガス(21)、ヴァルナ(30)、ルセ(27)、ロヴェチ(32)、モンタナ(83)、首都ソフィア(1)である。
1つの県あたりの人口は約93万人、平均面積は12,335平方キロメートルである。ただし、行政区分の改編が実行されれば、平均人口約30万人、平均面積は約3,965平方キロメートルとなる。
県は地域政策や地域における国家政策を実施し、中央政府の諸機能を分権化するものとされる。内閣によって任命される県知事をその執行機関とし、議決機関をもたない中央の出先機関である。県の行政組織については閣議令によって規定され、各県庁ごとの職員数も定められている。ブルガリアには国家公務員、地方公務員についてとくに定めた法はなく、県職員や基礎自治体職員は国家公務員と同等である。現在の県という行政区分が導入されたのは、上述のとおり社会主義時代の1987年であるが、地域政策や基礎自治体の調整機能がうまく図られていないとの批判もあり、今年早々には名称は変えずに1987年に廃止された旧県の行政・地域区分が復活する見込みである。