(3) 権限の重複と不明確性
権限のところで詳述したように、同じ権限が基礎自治体と県に与えられているのみならず、条文の解釈の仕方にも幅が残されている。今後、権限の配分がさまざまな自治体の間でスムーズに行われていくかどうかが、もう1つの焦点となろう。
(4) 法律の条文と政治文化
確かにルーマニアでは地方自治体の自治が憲法上保障され、地方財政法も昨年可決された。近々、新しい地方行政法と公務員法も採択される見通しである。しかし、法律上地方自治が保障されたからと言って、それが実際実現されるか否かは別問題である。そのような経験に乏しく、これまで強固な中央集権制がとられてきたことから、人々がこれまでの慣習に則って中央の指令をあてに行動したとしても不思議はないからである。
制度が樹立されても、それを実施する人々のメンタリティーや行動様式が変化しなければ、法律の実施はおぼつかない。この意味で、ルーマニアに地方自治が根付くか否かを決定するもう1つの要因は、人々が過去の政治文化の呪縛から自らを解放できるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
これらの諸点に留意しつつ、今後の動向を見守っていく必要があろう。
(六鹿 茂夫/静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授)
* なお、本稿では、ルーマニア語にかかる特殊文字は使用していない。
(注)
(1) 1996年のルーマニア選挙の意義については、拙稿「半世紀ぶりに非共産政権へ変身したルーマニア」『世界週報』1996年12月17日。
(2) ルーマニアのNATO加盟問題については、拙稿「NATO拡大とルーマニア」林忠行編『東中欧地域国際関係の変動』北海道大学スラヴ研究センター、1998年、37-64頁。
(3) ルーマニアの議会については、拙稿「ルーマニアの議会と政党」伊東孝之編『東欧政治ハンドブック』日本国際問題研究所、145-182頁。
(4) 中島崇文「ルーマニアにおける地方制度と地方選挙(1990-1996)」スラヴ研究センター冬季研究報告会『スラヴ地域の変動一その社会・文化的諸相―』(1997年1月30日〜2月1日)。
(5) 詳しくは、拙稿「衛星国の自立化-ルーマニア自主外交」伊東孝之、本村汎、林忠行編『スラブの国際関係』弘文堂、1997年、137-161頁。
(6) 拙稿「チャウシェスク体制の成立過程(1965-1974)」『ソ連研究』1987年10月号、159-182頁。
(7) Legea Administratiei Publice Locale, in The Parliament of Romania, Romania, towards the State Governed by the Rule of Law, Bucuresti, 1993,p.199-220.