しかし、なかにはロシア連邦の場合にように、連邦法や連邦構成主体(共和国や州等)の法と地方自治体の憲章とが法制度上適合していない場合もあり、制度確立期の過渡的な状況を示している国もある。また、国と基礎自治体との中間団体としての県の位置づけが、制度上明らかでない場合もあり、また逆に、制度上明らかであったとしても、実態上では不明瞭な国も多い。
また、地方において、制度は備えていても、一般に、その行政事務の遂行能力が低く、行政システム自体がまだ充分確立しているとは言い難い。そのため、地域住民の意思に基づいて地方自治を行おうとしても、実際には地方自治体を運営する充分な行財政能力が存在せず、自ずから自治の実態は貧弱なものにならざるを得ないのである。例えば、公務員については、すべての国が、その資質向上に力点が置かれているし、ルーマニアのように、公務員のレベルをEUレベルまで引き上げることを、明確な目標としている国もある。また、財政面では、ハンガリーの地方自治体は、保有資産の売却によって急場をしのぐという、「タケノコ生活」の状態に置かれているのが現状である。財政的な側面に限っていえば、調査対象国のうちポーランドだけが、自主財源が4割を占め、他の体制移行諸国よりは豊かなようである。しかしながら、これも、相対評価でしかなく、しかも、地方自治体の歳入状況に応じて行政サービスが提供されている場合も少なくないことを考えれば、実際には財政能力は充分とは言い難い。
それでも、地方における最低限の行政サービスは、基本的には地域住民の意思によって運営されるところの地方自治体によって提供されている。ここでいう、地方自治体とは、主に基礎自治体を指しているが、この他には、むろん、中間団体としての県も含まれる。その場合、前者が基礎的サービスを提供するのに対して、後者は、ロシア連邦の地区(ライオン)やルーマニアの県のように、主として専門性と広域性に基づいた事務を担当していることが多い。また、県にはそれと同時に、中央政府の出先機関としての性格が加わる場合があり、この典型としては、ルーマニアが挙げられる。一方、直接的な行政サービスの提供はせず、基礎自治体間の調整や監督等を県の役割とする国としては、ポーランド、ウクライナ、ブルガリアが挙げられる。
このような実態的運用をも視野に入れて、体制移行諸国において、中間団体である県をふくめて地方制度を考察した場合、どこまでが地方自治体で、どこからが国家行政機関の一部なのかは明確ではなく、融合していることが大きな特徴といえるだろう。この点は、政治的側面からみると、さらに明瞭となる。例えば、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアでは、議会が設置されているが、首長は上位政府による任命ないし承認となっていることも、その一例といえよう。