なぜなら各アクターががそれぞれの利害を考えてレジームを弱める方向に動くこともあるからである。
過去の環境政策・環境レジームと自治体アクター
そこで話を国内環境政策あるいは国内環境レジームに絞ってみよう。温暖化防止における自治体アクターの役割を探るのに、過去の環境政策ないし環境レジームにおける自治体アクターの果たした役割を見てみるのが参考になろう。 最も参考になるのが水質汚濁防止法をコアとする水質改善レジームと大気汚染防止法をコアとする大気汚染改善レジームである。
1960-70年代の日本の公害についてここで詳述する余裕も必要もない。ただしどのようなレジームの中で問題が克服されていったか見てみるのは、本稿の脈絡では有益である。当時、日本の水系、大気は相当汚染されていた。水の場合、有機物、重金属などによって環境は悪化し、大気の場合、二酸化硫黄、二酸化窒素、浮遊粒状物質などによる汚染が進んでいた。
こうした状況の中、公害国会(1970年)で公害関係14法が成立した。この14の法律は環境レジームを規定する法律である。とりわけその中の水質汚濁防止法と大気汚染防止法が、水と大気の環境レジームのコアの法律であった。
こうした法律は当然国というアクターによって作られたトップダウン型のものである。もとより法律の成立過程ではそれ以外のアクター(とりわけ住民運動など)が一定の影響を与えたが、法律施行の主体はあくまでも国家アクターである。しかし国家アクターがトップダウン型の政策を行う場合、一国全体での実施可能性を考慮するから、ある地域では期待される環境成果以下の成果しか法律では期待できないということが良くある。
水質汚濁防止法と大気汚染防止法で規定されるレジームでも、実際そのようなことが起きた。たとえば、東京都にとって水濁法によって規定された、事業者に課せられるBOD160ppmという排出基準はとても許容されるものではなかった。すなわち同法で規定された水質改善レジームは弱すぎたのである。そこで東京都はいわゆる上乗せ基準の実施をめざした。自治体アクターのレジーム強化に対して、企業アクターは阻止アクターとしてふるまった。