ウ 面積と交付税から見た大都市近郊小規模市町村
市町村合併について議論が行われる場合、人口が多ければ多いほど効率的な団体運営が可能であるという主張が行われることが多い。これは、市町村が提供すべき標準的な公共財を想定して、そのような公共財の生産効率性をどれだけ上げることができるか、住民1人当たりのコストをいかに削減できるかという議論である。
このため、都市部の人が市町村合併を進めるべきだと主張する際は、中山間部の人口の少ない市町村を取り上げて議論が行われる。しかし、地理的な諸条件を適正に考慮すれば、広大な山村地域で人口が数千人の団体どうしを合併させることや、離島に存在する複数の団体を合併することで得られる規模の経済性のメリットは大きく期待できないことも想定される。
そこで、人口だけでなく、市町村の面積についても着目して考えれば、面積は小さいが、それなりに人口の大きい大都市近郊の市町村は数多くあるため、そのような市町村が合併した場合に効率性が大きく向上することが期待される。
更に、地方交付税制度の観点から見た場合、交付団体が合併するときは地方交付税収入があるため損得がはっきりしないが、不交付団体が合併するときは、合併しても税収は一定であるため、歳出の需要が減ることにより効率化が図られることがわかりやすい。大都市近郊の市町村は不交付団体が多いため、合併による効率化のメリットが分かりやすい地域である。
エ 基礎的自治体と意思決定
小規模市町村と比べて大規模市町村は、様々な住民の意思が入り込んできて、意思決定に苦労を要すると考えられる。しかし、その分多様な意見を踏まえて行われる意思決定であり、公共性が強いといえる。
例えば、特定の産業に従事する住民と役場職員だけの地方公共団体は、政治体というより利益集団であり、やはり産業や世代間にある程度の多様性があり、意思決定にあたって競争が存在してこそ政治体としての自己完結性を持ちうるものと考えられる。
地方自治は民主主義の学校と言われることがある。その言葉に込められた趣旨としては、人間社会の多様性を出発点として、お互いの相異なる価値観を認めあい交錯する