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藤沢市における「リエンツィ」の上演を祝して

 

1998年10月28日

 

グランド・オペラと呼ばれるジャンルにおけるワーグナーの壮大な習作としての「リエンツィ」は、周知のとおり、当時はまだ駆け出しの作曲家であった彼にとって、途方もない成功をもたらしました。彼の波瀾に富んだ生涯のなかで恐らく、大成功を収めた作品のひとつでありましょう。「リエンツィ」がリヒャルト・ワーグナーの名を世に知らしめ、30歳に満たない若さで、(ザクセンの)宮廷楽長に任命される要因となった作品もであります。とはいえ、彼は、この成功で決して目が眩んだわけではなく、グランド・オペラは自分の進むべき道ではないと、自覚したのであります。ともあれ、長い年月を経た今日、全てを客観的に眺めますと、「リエンツィ」は、今昔を問わず、精彩を放つ魅力的な作品で、ただ単に若気の至りの所業ではなく、オペラの作曲家から楽劇作家へと発展したワーグナーの、ひとつの重要な足跡であります。

 

この膨大にして、あらゆる観点からしても、過大な手間と配慮が要求される作品を藤沢市が上演なさるについては、作品に対する深いご理解と、雄大な勇気があってこそ可能であったと確信いたします。しかも日本では初演という意義も加わりますと、今回の公演はより高く評価されるべきでありましょう。この作品が上演に辿り着け得たのは、とりわけ、長年に亘って親しくご交誼をいただいている畏友、畑中教授のお力によるもので、ここに感謝の意を表す次第であります。

 

上演に参加なさる方々、芸術家、技術担当者、担当責任者、観客、藤沢市民、そして自主的に、また依頼を受けてご協力なさった全員の皆様に、私の心からの喜びをお伝えすると同時に、多大かつ当然のご成功を願ってやみません。そして、25年の歩みを持つ藤沢の市民オペラが、ワーグナーが「リエンツィ」を布石として成長、発展して行ったように、この先も成長を続け、発展なさることを期待しております。この目的を達成するに当たって、皆様全ての方々に邁進と、豊かな空想と、幸運を願う次第であります。

 

バイロイト祝祭劇場総監督

ヴォルフガング・ワーグナー

 

 

 

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