鳥取県内一農漁村地域における頭痛の疫学的検討
鳥取県・国保赤碕診療所
小谷 和彦
鳥取県・鳥取大学医学部臨床検査医学
下村登規夫・村上 文代・猪川 嗣朗
要旨
日本では,地域疫学的な頭痛の実態調査はほとんどない。最近われわれは,鳥取県の一農漁村である赤碕町で,頭痛の疫学調査を実施したのでその結果を報告した。
頭痛の疫学を把握するため,以前に実施された鳥取県大山町の研究と同様のアンケートを用い,赤碕町の検討を行った。赤碕町においても,大山町にみられた多くの疫学的特徴が確認された。その概略は以下のようであった。頭痛の有病率は全人口の12〜18%程度で,女性に約2〜3倍多く出現していた。片頭痛は全頭痛患者の30%を占め,その有病率は約3〜8%と思われた。年齢分布は30歳代を中心に若年に多い。前兆のない型の男性では,20歳代が最小となる2峰性を示し,前兆のある型の男性でも40〜50歳代が最小になる2峰性を示す可能性が見出された。緊張型頭痛は中年後に多く,全頭痛患者の50%程度を占め,有病率は約6〜10%と思われる。片頭痛や緊張型頭痛は春に発作を起こしやすく,40〜50%程度に家族歴を有していた。また,これらの発作には,精神的ストレス,肩こり,環境の変化,睡眠不足,疲労感が誘因となっていた。また,赤碕町の検討から,漁業地域では,農村部に比べ,頭痛の型の出現率が異なり,緊張型頭痛が高率,血管性の頭痛が低率であることが認められた。
これらの疫学的知見は,問診で診断することの多い機能性頭痛の診療に,極めて有効な情報になるものと考えられる。
I はじめに
頭痛は日常臨床において多くみられる,ありふれた愁訴のひとつである。しかしながら,本邦では現在までに,慢性あるいは反復性に頭痛を経験しているひとに関する疫学的検討は,欧米ほど多く実施されてきてはいないl)。しかも本邦の検討は外来患者においてなされたものがほとんどである1)。すなわち,地域住民あるいは全国民を対象とした調査は,数えるほどしかない。
頭痛患者には遺伝的要因を持つものもあり2),また,生活習慣とも関わるため,その疫学的な特徴には地域差が存在し得るとされている1,3)。したがって,その地域における疫学的な特徴を知っておくことは,日常診療の助けになると考えられる。
地域集団の調査としては,本稿の著者である下村らが,数年前に実施した,鳥取県の大山町研究がよく知られている1,4)。今回,われわれは,鳥取県の一農漁村である赤碕町において,大山町研究と同様の手法で頭痛の地域疫学的研究を行ったので,その概要を報告する。
II 対象と方法
赤碕町は,人口8,793人(男4,201人,女4,592人)