軟部組織肉腫の家族的集積
―リー・フラウメニ癌症候群様の1家族の3症例の報告―
青森県・むつ総合病院臨床病理科
成田 竹雄
青森県・むつ総合病院外科 横山 眞・松田 恵治
要旨
軟部組織肉腫の家族性集積の認められた3例の稀な症例(母親は悪性線維性組織球腫,その子供2例は脂肪肉腫)について記述する。母親は,右大腿部に遅発性悪性線維性組織球腫を発症した。この母親の息子と娘が,それぞれ38歳と39歳で後腹膜脂肪肉腫を発症した。母親はまた,2年後に二次的悪性腫瘍として胃癌を発症した。これらの臨床像はリー・フラウメニ癌症候群の臨床像と非常に似ているものであるが,厳格な診断基準を満たすものではない。遺伝学的には母親の末梢血から得られたDNAの配列決定を行っても,第4エキソンと第9エキソンの間にあるp53遺伝子のgermline突然変異(生殖細胞系突然変異?)を検出できなかった。免疫組織化学的には,p53タンパク質は娘の脂肪肉腫にのみ認められた。これらの結果は,この軟部組織肉腫の家族性集積は非常に稀なものであり,われわれの知る限り,これまで定義されたり記述されたりしたことのない家族性癌症候群のユニークな病像を示したものであることを強く示唆するものである。
はじめに
一つの家族の中の複数の構成員が罹患する悪性新生物疾患,いわゆる家族性癌症候群は比較的稀な疾患である。典型的には,2世代以上にわたって悪性腫瘍(特に早発性悪性腫瘍)が生じる,同胞(兄弟姉妹)が罹患する割合が高く,それぞれの患者で他の悪性腫瘍が伴っていることが特徴的である1)。この症候群に伴って一般的に生じる悪性腫瘍は,網膜芽(細胞)腫2)3)と家族性腺腫様(結腸)ポリポーシス4)であり,これらに関与する遺伝子は,それぞれRb(網膜芽細胞腫)遺伝子5)-7)とAPC(腺腫様結腸ポリポーシス)遺伝子8)であると同定されている。家族性癌症候群に伴って一般的に生じる悪性腫瘍は,リー・フラウメニ癌症候群(LFS)の軟部組織肉腫である9)-11)。リー・フラウメニ癌症候群は,ある種の癌が集積的に生じ,特に軟部組織肉腫の罹患率が高いという特徴を有している。LFSの診断基準については,以下に示すように厳格に定義されている:発端者が45歳以前に肉腫の診断を受け,一親等の家族が45歳以前に癌を発症し,別の一親等もしくは二親等の家族は45歳以前に何らかの癌の診断を受けるか,どの年齢であっても肉腫が生じたもの。
本論文では,1つの家族の3名の構成員がすべて軟部組織肉腫を発症した事例について記述する。それらの臨床的プロファイルはLFSのものと非常に似ているが,発端者の発病年齢やp53タンパク質の免疫組織化学的分析結果や遺伝子解析結果のような点でLFSについてこれまで記述されていたこととは一致していない。
材料と方法
顕微鏡検査用の組織検体の調製
それぞれの腫瘍の組織検体を10%ホルマリンで固