と,購入した機器の費用等を合わせても,1994年に国のデータバンク事業で給付されたソフト,ハードの予算の数分の一の費用である。具体的に言うと,メーカー製のパソコンセットを2セットも購入する資金があれば充分である。これは,個人として充分投入可能な額であり,汎用機を使用し,かつ無理のない性能のものを使用するということがポイントである。またソフトも,汎用のもの,フリーのものを使用するということで実現できた。ハード,つまり機器の価格ということに関しては,ここ数年は隔世の感がある。
専用機,専用ソフトと比較して,機能の少なさ,アフターサービスの少なさ(実際は,ほとんど変わりないと思われるが)などが,使用時の不安材料かと思われるが,そのかわり自由度の大きさ,使用目的に応じた改良の簡単さなど,それを補ってあまりある利点も多かった。ソフトハードともに使用に習熟するにはかなりの学習を必要とするが,これに関してもいったんネットワークを形成すれば,ネットワーク経由による問い合わせも容易であり,かつ機器の設定の情報などもそのままネットワーク経由で転送可能であり,エキスパートによる,ISDN回線を介した機器の設定も可能である。
基本的にどんなデータであれ,公衆回線を用いて生の患者情報を伝送することは,危険きわまりない行為であると言える。画像などでも,どんなフォーマットで送ろうとも,途中で漏洩,さらには改竄の可能性さえあるのが,現状の公衆回線,インターネット利用の問題点である。このセキュリティ問題の解決なくしては,公衆回線,特にインターネット利用による患者情報の伝送,医療利用などは問題が多いと思われる。ここで,暗号化技術を使用して,そのブレークスルーができたのではないかと思われる。
患者データの転送に関する秘匿性は,技術に関しては絶対などということは言えず,またいくら転送中の秘匿性に気をつけても,転送後の端末での情報管理,よく言われる端末のオペレーターの肩越しの情報漏洩,もしくは端末をオープンにしたままで席を離れることの危険性など,ほころびはいくらでもある。ただ,その点さえ気をつければ,データを改竄される,もしくは盗み見きれる可能性は,暗号化技術でかなり防止できる。結局,そこまで無理をしてでも読みとろうというデータであるかどうか,一般診療上はそのような可能性は少ないのではないか。そんなコストベネフィットもあり,それなりの予防措置として充分なものではないかと思われる。
ともかく近年,情報通信技術,機器の発達が著しく,安価に高機能な機器の調達が可能になってきた点,また公衆ISDN回線の整備などによって,僻地,離島などでも,質の高い情報回線が確保されつつある点,これらは,僻地診療所の情報収集,処理に関しても,とても大きなファクターだと思われる。そこで,個人レベルで購入可能な価格ベースでのパーソナルコンピュータータ及びインターネット接続装置を使用し,セキュリティ問題は暗号化技術によってクリアするという発想で,病診連携を試みてみたわけであるが,それは一応の成功であったと思われる。
PGPを利用することで,個人間の電子メールのみならず,メーリングリストにおいても患者情報などの守秘性の高い情報を安全に扱う事が可能である。新田はUMHNETにおいて,上記のPGPを使用したメーリングリストを運用しており,遊子診療所もそこに参加している。また,鎌田もUIC上でPGPを利用したメーリングリストを運用しており,それぞれ患者情報の交換,オフレコ情報などの交換が頻回に行われている。
今後,暗号化技術によって,医療の世界でもオープンで,かつ安全な情報交換,ネットワークの形成が進むことが期待される。
そして,筆者がこのネットワーク形成と病診連携のための研究を遂行する上で,なにより有益だったのは,地域中核病院のネットワークに参加し,それを主催する医師たちとのディスカッション,交流を通して,その信頼関係の醸成ができたこと,そこがもっとも有益なことであったとも言える。
VI 結語
一般に得られる安価な装置,プログラムを用いてネットワークを形成し,病診連携,安全な患者情報交換,医師間,医師と他の職種間の信頼関係醸成に有用であると思われるので報告した。
VII 謝辞
この研究を行うにあたって,ISDN回線の導入等,