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散発発生する食中毒の経験と検討

―病原性大腸菌O1感染を含む―

 

京都府・国保伊根診療所 所長

今子 弘美

 

要旨

 

平成9年の伊根診療所の食中毒は2症例にすぎず,その1例では6人家族中,子供1人に病原性大腸菌O1(ベロ毒素陰性)enteropathogenic E.coli(EPEC.O1)が発症し,兄2人が無症状の保菌者だった(図1-1)。他の1例は吐物より黄色ブドウ状球菌(St.aureus)陽性例だった。

平成10年(1998)6月末より9月初旬にかけて,断続的に散発発生する細菌性食中毒を疑わせる32症例を経験した。

その内の26例に便の細菌検査を施行し,13例に細菌が陽性であった。内訳は腸炎ビブリオ(Vib.parahemliticus)10例。病原性大腸菌状O1(ベロ毒素陰性)2例。黄色ブドウ球菌,その他1例であった。

本年に発症した病原性大腸菌O1症例はベロ毒素陰性であるにも拘らず,2症例とも経過が遷延し,1例は特に特異な興味深い経過をとったため詳細を報告した(図2-1)(図2-2)。

 

はじめに

 

集団食中毒の発生は社会問題としてマスコミでも取り上げられ,その発生源は固有名をあげて糾弾されている。平成8年(1996)死者を出した病原性大腸菌O157に関しては詳細な文献がある。

伊根診療所は,当院に通院不可能な高齢者の高血圧症を中心とした慢性疾患が多く,急性胃腸炎症状の患者は少ない。

本年,当診療所では6月末より9月初旬にかけて急な嘔吐,下痢,腹痛を示す急性胃腸炎症状を呈し,細菌性食中毒を疑わせる症例が集団ではないが散発的,断続的に発生したため,その32症例を報告した。腸炎ビブリオが10例であったが,病原性大腸菌O1(ベロ毒素陰性)例が2例あった。

平成9年にも1家族の子供8人が同じ病原性大腸菌O1陽性であった。

食中毒は深夜から明け方に激しい症状がある例が多く,経過をみて,勿論,回復すれば受診しないが,症状が一段落した時点で受診をしたり,脱水症状のため受診をする例が多く,その分,細菌の検出率は下がるようだ。

たまたま救急車その他で,入院設備のある中核病院を受診した患者3名は,後からの聞きとりによると食中毒を疑われず,また深夜のため便細菌の検査をされていなかった。

急性下痢症の患者をみたら細菌性食中毒を疑えと成書にもあるが,その通りであることを改めて経験した。

 

本 文

平成9年(1997),当診療所の食中毒の発生は2症例である。

症例1 ♀61才

 

 

 

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