離島の特性を生かした小児気管支喘息に対する治療とその効果
熊本県・龍ヶ岳町立上天草総合病院 名誉院長
岡崎 禮治
要旨
へき地離島の過疎地の町立病院で,海に囲まれていることと非都会性を利用して,病院職員をあげて小児気管支喘息の治療に取り組んできた。
関与した小児気管支喘息児は,短期の喘息サマー・キャンプを含めて4,558名になっている。その間,親子離断術(parentectomy)に継続する親子接合術(parentostomy)の提唱や海洋療法の範囲拡大などは,34年間の診療と研究から生まれたものである。また,施設長期入院がもたらす患児のIQの上昇や自立性の確立などに関して,数多くの論文や学会発表も行ってきた。
1994年に実施したアンケート調査では75.6%が寛解及び略寛解しており,死亡は2%であった。重症難治例の多い集団としては,諸家の報告と遜色のない成績と云える。
小児気管支喘息罹患率の増加するなか,施設療法を中心に既に発表した資料に若干の知見を加えてまとめたものである。
I 地域の特性と町立病院
A:地域の自然条件
熊本県天草郡龍ヶ岳町は,九州天草諸島に属する上天草島の東南端に位置している。町の中央には急峻な龍ヶ岳の山塊があり,東方から南西にかけては海食と断層のリアス式海岸が不知火海に没している。平地は少なく大きな川はない,豊かな屈曲を示す海岸線と点在する小さな島々の景観は美しく,国立公園に指定されている。年間平均17℃の温暖な海洋性気候に恵まれて亜熱帯植物の生育が著しく,気根樹のアコウの木の北限ともなっている。町木のアコウのほか椰子,ビロー樹,ソテツなどが茂り,海岸には「はまゆう」の群生が見られる。
B:地域の社会条件
昭和43年に天草五橋が開通するまで,住民の交通手段は船だけであった。自動車による陸路の交通が発達した現在でも,天草郡の主邑である天草下島の本渡市まで車で1時間,県郡の熊本市まで2時間を要し,対岸の九州本土芦北町まで海路11Km,船で1時間の距離にある。龍ヶ岳町は旧樋島村,旧高戸村,旧大道村の三村が合併したもので,当初1万人を数えた人口も現在は6千人を下回っており,高齢化率26%と高齢化が進行している。住民は零細な沿岸漁業と養殖業に従事するほかは,農業は耕地が少なく見るべきものがない,典型的なへき地離島の過疎の町である。
C:町立病院の設立と運営方針
1. 設立の意義
昭和30年代に入っても上天草島には病院がなく,8ヵ町村4万5千人の住民には保険あって医療なしの状態が続いていた。これを解決する為に,住民の