第5章 補聴器・補聴援助システム・福祉の街づくりへの提言
補聴器の普及のために
(社団法人)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長
高岡 正
1. はじめに
私たち、難聴者は補聴器によって、外界と触れあっている。補聴器で良い音を求めるのは、良いコミュニケーションと安全、快適な生活環境を求めていることに他ならない。今や、高齢者人口はわが国の人口の16.2%、2049万人を越えた。人は誰しも高齢になると聞こえが悪くなる。わが国では、平成8年度の厚生省の身体障害者実態調査では、身体障害者としての聴覚障害者は35万人となっている。この実態調査では、60歳以上の聴覚障害者は何と72.1%にも達し、70歳以上にかぎっても49.8%と高齢化社会を反映している。しかし、一方で35万人という数字は、補聴器メーカーや耳鼻科医等で約600万人と推計されている数字と余りにも隔たりが大きい。これは、一つには身体障害者福祉法では両耳70dB以上の聴力損失があると身体障害者手帳の6級に該当するという非常に高いレベルに基準が設けられているからではないか。実際には、40dBや50dBくらいから日常生活の会話に不便を来すことが、東京都心身障害者センターの相談来所者のデータからも実証されている。もう一つの理由は、現制度は自己申告制のため、自ら「聴覚障害」と認めたがらない難聴者の心理からして、潜在的な「聴覚障害者」が多いと思われる。
2. 社会と難聴問題
難聴者は、三つの基本的なニーズを持っている。一つ目は自分の難聴に適した補聴器を探したい、自分の聞こえと補聴器について理解したい。二つ目は補聴器でもっとよく聞きたい、補聴器をもっと使いこなしたい。三つ目は難聴と補聴器に対して周囲の理解を得たいということである。
聞こえの問題は、治療や補聴器だけでは解決が出来ない。どこでも利用できる補聴援助システムも必要である。本人の自助努力も必要である。しかし、それ以上に周囲の人々と社会の難聴に対する深い理解があって、「聞こえの保障」が得られる。補聴器と補聴援助システム、人工内耳が聞こえの回復を十分に果たすためには、社会の理解が不可欠である。NHKですら耳の遠いお年寄りに優しいとは言えないようでは、難聴者が自分に誇りすら持てない。
介護保険法の施行も近づき、高齢者介護者の育成が急がれているが、こうした方々に「聞こえ」の補聴問題について、研修を受けていただき、高齢難聴者のQOLを高めていただきたい。いずれは、ご自身も難聴になるのですから、勉強しておいて損なことはない。
しかし、なかなか無くならないのが、補聴器店に対する不信感です。難聴者が補聴器を外して見せているのに、平気で話しかける店員は多い。認定補聴器技能者制度も全国補聴器専門店制度もあるが、全国補聴器メーカー協議会の「補聴器技能者のためのトレーニングマニュアル」を見ると、この大部分は聴力検査、補聴器、フィッティングの解説で占められており、技能偏重と思われる。「補聴器技能者としての役目を越えて、聴覚障害者の相談役を要求され」(同書監修の言葉)ることに応えて、「難聴者が社会参加へ導くように」(同)はなっていない。難聴