5. 結言
(財)日本船舶標準協会の平成10年度事業計画である産業基盤の強化のための標準化の一環として「船用ダクタイル鋳鉄弁の規格化」が取上げられ、配管ぎ装品専門分科会において草案作成を担当するよう決定された。
本専門分科会並びにワーキンググループで数回に亘り検討した結果、10K-80A玉形弁をモデルとして、最近のニーズに合せ軽量小型化を図り、ISO面間寸法の採用時にも対応出来る図面を平成10年9月に完成した。従来の船用弁に比べ各部寸法をコンパクトにしているため性能確認の必要性があり、試作実験を行い性能を確認すべく検討を進めて来た。
今回の実験では、流体性能試験、強度試験の他、弁箱の強度解析をコンピュータを利用した有限要素法(FEM)解析等を行い、多数の貴重な知見が得られた。
1. 材料はJISG5502球状黒鉛鋳鉄品FCD400-15とし、試験の結果、伸び24%が得られ、船級ルールによる伸び12%以上の規定に充分満足するものであった。球状化率についても85.6%であり良好であった。
2. バルブの操作トルクは、計算トルクで全閉し水圧試験を行い合格した。実際には作業者が手動によって締込むことになり、そのトルクは計算トルクの約2倍であった。弁棒強度の設計に当っては考慮が必要である。
3. 損失係数については、一般的にリフトの影響が非常に大きいが、リフトのみならず弁箱の流過部の形状もまた非常に影響を及ぼすものと考えられ、設計上考慮すべき事項である。実船で使用する場合の損失係数の検討を行った結果、試作弁で問題ないとの結論が得られた。省資源を考えた場合、設計上検討の余地があるものと考えられ、さらに詳細に究明していくことが必要である。
4. 有限要素法(FEM)解析によって応力集中の発生する箇所が数箇所あることが判った。今回の実験では、弁箱の外表面の歪を測定しているが、内表面にも高い応力が発生していることが有限要素法(FEM)解析で判った。今後の設計指針に対して貴重な知見であり、この部分の強度を考慮することが重要である。
試験の実施については、運輸省船舶技術研究所に多大の実験資材、人的支援を仰ぎ、滋賀県東北部工業技術センターの各位には、試験実施上の指導、消耗資材などの提供等さまざまな形でのご協力をいただいた。試験の実施を中心となって推進した日の本辨工業株式会社には、試験中の専門分科会の開催準備などにも多大のご尽力をいただいた。最後に関係各位の熱意あるご協力に深く感謝いたします。
6. 参考文献及び資料
[文献]
(1)村田.樋田.酒井:バルブ製品の性能に関する研究
滋賀県立機械金属工業指導所業務報告書(昭和63年度)
(2)JISB2005-1995 バルブの容量係数の試験方法
(3)JISF7305-1996 船用鋳鉄10K玉形弁
(4)JISF7305-1996 船用鋳鉄10K逆止め玉形弁
(5)JISG5502-1995 球状黒鉛鋳鉄品
(6)船用付鋳鋼仕切弁計算書:日本工業標準調査会
(7)バルブ設計データブック:日本バルブ工業会編
(8)鋳鉄弁の強度試験実験報告書(昭和51年3月):(財)日本船舶標準協会
(9)鋳鉄仕切弁(ISO形)の性能試験報告書(昭和55年2月):(財)日本船舶標準協会
[添付資料]
(1)船用球状黒鉛鋳鉄10K-80A玉形弁の試作図面(配管案)
(2)船用球状黒鉛鋳鉄10K-80A玉形弁の試作実験方案
(3)写真 試作実験状況の写真