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傷の例を図4にしめす。損傷が接触面の両端部付近で著しく、図3のτδmaxの大小関係によく対応している。このほか、詳細な解析を行った結果、玉軸受の初期のフレッチング摩耗はτδがピークを示す位置付近に生じ、摩耗の大きさがτδの大きさに依存することがわかった。

 

[1.5] 潤滑剤の効果

 

鋼の弾性接触条件下のフレッチング摩耗に及ぼす潤滑剤の効果についての最近の見解を以下に示す。

いま、微振動を受ける鋼球/鋼平板(弾性接触下)の界面に潤滑剤を付与することにより、無潤滑時の摩擦係数μがμLに変化するとすれば、MINDLIN理論の前提条件等から、式(1)のa'/aを減少させる(すなわち、すべり域を増大させる)場合のτδmaxとx/aとの関係は図5のようになる。ただし、K2は定数、パラメータf(=μL/μ)は、潤滑剤の付与による摩擦係数の減少の程度を示すものである。図示のように、fが小さい場合ほどτδmaxも小さく、したがって摩耗が発生しにくい。

3種類の潤滑油を用いて、フレッチング摩擦・摩耗実験を行い、各潤滑油の摩擦係数の初期値と終値からfを求めて摩耗との関係を調べた結果によると、摩耗(痕)の大きさは、fにほぼ比例して増大し、上記の予測が裏付けられた。すなわち、潤滑下においても、τδmaxに直接かかわるf(=μL/μ)の大小が摩耗に影響し、fが小さいほど摩耗が少ない。

 

005-1.gif

Fig.5 Relation between x/a and τδmax under lubricated condition.f=μL/μ.μ

L:coefficient of friction with lubricants.

μ:coefficient of friction without lubricants.

 

[1.6] 摩擦エネルギ損失と摩耗との関係(本稿では省略)

 

[2] フレッチング摩耗の防止法(同上)

 

[3] まとめ(Summary)

 

フレッチング摩耗の発生機構と防止法に関する基礎的諸問題を筆者の研究室で得た成果を中心に検討した。現段階では、摩耗機構に関する見解が未だ十分に確立されていないこともあって、フレッチング摩耗を完全に防止することは難しい。

筆者の見解に基づいて、フレッチング摩耗の低減に有効な方法を集約すると、次のようになる。

設計:最も効果的な設計は、接触面が金属のような延性材料の場合は表面に作用するτδmax(τ:せん断応力、δ:せん断ひずみ)を小さくすること、セラミックのような脆性材料の場合にはσmax(σ:接線方向の引張応力)を小さくすることである。

材料:フレッチング摩耗の軽減に寄与する望ましい性質は、高硬度・高靭性・高熱伝導率を有し、耐凝着性(耐焼付き性)に優れることである。

表面処理:基本的性質は上記の材料と同じである。具体例としては、VC処理、Mo溶射処理、焼入れ・窒化・浸炭等の処理、MoS2分散アルマイト処理などが有効である。

材料挿入:フレッチング損傷防止に有効な方法の一つに、接触2面間への薄板の挿入がある。有効な例を挙げると、延性に優れる銀や銅など、低摩擦材のPTFEやポリエチレンなど、高摩擦・可撓材のゴムやエラストマなどがある。

潤滑剤:接触2面間への侵入能力を含めて潤滑性に優れる潤滑剤が有効である。一般には、流動性と境界潤滑性に優れるものが良い。具体的には以下の例がある。添加剤等:液体潤滑剤にはTCPやZDDPなど、グリースには、ジ・ウレア増ちょう剤と油性向上剤の組み合わせ、リチウム・ステアレート増ちょう剤とバリウム石鹸やりん系添加剤の組み合わせが良い。また、ステンレス鋼の固体潤滑剤には、SnI2、CdI2、ZnI2などが良い。

おわりに、今回のIMarEとの交流事業にご理解とご支援をいただいた(財)日本財団に深甚の謝意を表する。また、訪英活動に際して、種々ご尽力いただいた関係各位、特に両学会の事務局ならびにJapan Ship Centre(London)の各位に厚く御礼申し上げる。

 

 

 

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