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シンポジウム内容

 

1. 京都大学教授 内藤正明氏 基調講演

 

今日は、環境を専門とする立場から、今、何故、田園暮らしが必要とされているのか、特に日本において田園暮らしをすることの意味について話をしてみたい。

これからの環境がどうなるのかという点について、将来予測を紹介したい(関東資料1])。3年程前の朝日新聞の記事だが、2000年を越えたあたりで、世界全体で破局的な自体が起こるのではないかということを示している。最近でも、新しいデータを取り入れた予測がいろいろと行われているが、こうした状況が良くなっているということを示すものはない。二千数十年の頃に、人口、工業生産が激減するという世界規模での変動が起こると予測されている。こうした事態を避けるためには、「持続可能性」をどのように達成すべきかという点が重要。

「持続可能性」について考えるために、温暖化の例を取り上げてみたい。一昨年の温暖化防止京都会議(COP3)では、様々な議論がなされ、マスコミ報道も振やかだったが、どうもコトの本質は伝えられていなかったように思う。日本のCO2削減目標率が5%、ヨーロッパの削減目標率が何%という細かい議論が重要なのではない。日本やアメリカが抵抗したのは、現在の経済・社会体制を維持することを前提としているからだ。専門家グループの指摘によれば、本当に地球温暖化を防ごうとするなら、今すぐ、CO2排出量を60%削減する必要があるというのが大勢である。日本は原発等で対応しようとしているが、環境派からは反発を受けている。ヨーロッパは15%程度の削減目標を掲げているが、これは、経済・社会を根本的に変えていこうという覚悟がかなりできているのではないか。

そこで、日本が今どういう状況にあるのかということを見てみたい。戦後50年、どういうことをやってきたのか。まず、敗戦後、わずかに残った、人、物資、資金を東京に集中させた。そして、工業を興し、規格・大量生産を進め、輸出を増大させ、その利益で必要なものを買うというプロセスをとった。都市づくりでも、東京一極集中を促進し、全国総合開発計画を推進することで現在のような国土が出来上がった。こうしたやり方は、経済的物的な豊かさ、便利さを達成する上では非常に有効であった。しかし、その反面、「副作用」も大きかった。

「副作用」としては、過疎・過密、水の汚染や大気の汚染といった環境負荷の増大、経済的格差等が挙げられる。工業化、技術化が進めば必ず経済的格差が生じる。なぜなら、工業化、技術化とは、100人で出来る仕事を、技術・機械の力によって50人でできるようにすること。余った50人は仕事を失う。これは、資本主義社会では避けられない事態。アメリカでも、ビル・ゲイツが米国民の下層40%分に当たる所得を一人で得ていると言われているし、全世界で見ても、約300人程度の人が、世界の数億の人の財産と同等の富を独占していると言われている。日本の場合は、国策によりここまでの経済的格差は生じていないが、それでも、都市と農村の間には似たようなひずみが起きている。

今日の日本は、社会全体が経済的に豊かになろうという目標を達成してしまい、目標を喪失してしまっている。その一方で、山のようにでてきた「副作用」は、産業構造、経済社会の仕組み自体から生じる問題だったのだ。

では、これからどうしたらよいのか。今日、いろいろな議論がなされているが、整理してみると、大きく2つの方向に分類できるのではないか。

 

 

 

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