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地元学と里地おこし

 

講 師 : 吉本哲郎(熊本県水俣市環境課)

開催日 : 平成10年5月9日(土)

場 所 : 環境パートナーシッププラザ

 

今まで水俣でやってきたことを話します。その中から地元学とは何かを考えていきましょう。

 

●水俣のこと、村のこと、家のことを知らなかった!

水俣の地理的中心にある農村集落に生まれ、昭和46年に大学を出てから親戚中の強い勧めで市役所に勤務。農村の暮らしは海を見る機会は少なく、水俣病に関することもよく知らずに育ちました。

水俣は源流域から不知火の海までをひとつの市域に持つ流域の町であり、日本の地形の典型的な所です。海山川があり、農山漁村に町があり、従って海の民、野の民、山の民そして町の民がいます。

ここを舞台にして起きた明治以降の歴史は、工業を媒介に発展を遂げていくという意味で日本の典型的な所です。要するに日本のすべてをギュッと縮めたようなところです。ここに水俣病という世界に類例のない産業公害が発生したのです。日本の高度経済成長を支えてきた原因企業であるチッソという会社の存在、この工場はみんなが便利で快適な暮らしをするために欠かせないモノをつくっていました。チッソ(株)の存在がなかったら日本の繁栄はなかったと思います。豊かさのそばに産業公害があり、水俣病患者の犠牲があって、地域社会も二つに引き裂かれ、どうしたらいいかという判断もせずに野放しの感情のままいたずらに時を過ごしてきたのです。

私の母も水俣病患者の悪口を言っていました。いくら話をしても悪口が収まらない。それでつい最近のことですが、患者である杉本さん夫妻を黙って呼んで話を聞かせた後、患者だということを言いました。

それからです、悪口を言わなくなったのは。このことから、相手(との違い)を認めて距離を近付けて話を聞くこと、距離を近付けることが非常に大事なことだと分かりました。今では杉本さんとは家族ぐるみの付き合いです。母も火のまつりで杉本栄子さんの語りを聞いて涙を流していました。

 

患者は言うに及ばず、地域丸ごとが痛みをもって、公害から環境のこと、地域のことを考え行動してきたんです。水俣は。

 

●問題づくりから

地域にはいろんな問題があります。

問題になるのはそれをどんな問題として解くのかという問題づくりです。

問題づくりが違うと解決の仕方も違ってきます。例えば過疎の問題でも単に過疎と把握すると企業誘致による人口増加の解決策を選択しがちですが、残ったものでどうするのかという問題にしたら産品開発、農業体験、農家民宿などの解決策になってきます。

水俣病問題について患者や住民に話を聞いて考えたことは次の六つになりました。

 

 

 

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